中国での切手ブーム影響、1点100万円超える例も
「えっ、こんなに高いの」。明日香は驚きの声を上げた。10万円を軽く超える買い取り実績がカタログ広告に並ぶ。とりわけ高値なのが中国の京劇俳優を図柄にした1962年発行の「梅蘭芳(メイランファン)舞台芸術小型シート」で、1点で100万円を超える。
明日香は切手売買を手掛ける宇中スタンプ(東京都杉並区)の佐藤博俊さん(30)に事情を聞いてみた。「値上がりしているのは中国切手。経済成長を背景に、中国の富裕層の間でブームが起きているのです」
高値がつくのは50年代~90年代のものが中心。文化大革命では切手収集が禁じられたため、国内にあった古切手は大半が失われた。また文革後も人々の生活水準にあまり余裕が無く、コレクションがそれほど中国内に残っていない。
日本ではかつて中国切手を専門に集める収集家が多くいたこともあり、個人で保有する「埋蔵量」が多い。中国が外貨獲得のために切手を輸出していたことも背景にあるようだ。中国からブローカーが続々と来日し、個人や切手商から買い取って中国に流しているという構図だ。ブームが過熱するあまり、現地では偽物の古切手を売りさばく悪徳業者も出ているという。
「今年に入って中国景気が減速し、一時期より相場は下がりました。ただ当面は高水準が続くのではないでしょうか」と佐藤さんは力を込める。
「日本切手の人気も盛りあがっているのかな」。明日香が向かったのは、切手の研究や流通促進などを手掛ける公益財団法人日本郵趣協会(東京都豊島区)。応対してくれた浜谷彰彦さん(70)の話は意外だった。「買い手より売り手の方が圧倒的に多く、全く市場が盛りあがりません。記念切手の買い取りも、大半は額面割れです」
「なぜなの」。不思議がる明日香に浜谷さんは説明を始めた。日本で切手ブームに火が付いたのは50年代後半。高度成長で生活に余裕がうまれ、使用済み外国切手がお菓子のおまけになって人気が出た。大人から子供まで、幅広い世代が趣味として楽しんでいた。