すぐに命に危険が及ぶわけではないが、生活の質(QOL)は大きく低下する。患者自身に不快なだけでなく「労働生産性の低下にもつながりかねない」(鈴木准教授)。放置して胃と食道の境目付近で「バレット食道」と呼ばれる異常が起き、数年から数十年のうちにがんになる例もまれにある。的確な診断と早期の治療が大切だ。

治療薬9割に効果

胃酸の逆流で炎症を起こした食道(45歳男性)=東京警察病院の鈴木剛消化器科副部長提供

東京警察病院の鈴木剛・消化器科副部長の診断を受けた45歳の男性は、胸やけが治まらないといって病院を訪れた。問診の結果、胃食道逆流症が疑われ、内視鏡検査で確定した。肥満や高齢でなくても、「この年代の男性は働き盛りで帰宅が夜遅く、夕食をとる時間も遅くなりがち。そのうえ朝早い場合も。不規則な生活が発症につながる」と鈴木副部長は警鐘を鳴らす。

胃酸は空腹を感じるタイミングで分泌し、食べ始めると量が増える。食べ物が小腸に移ると止まる。しかし深夜に食事してすぐに寝ると消化する活動が弱まり、胃に残った酸や食べ物が逆流しやすくなる。このため、食事は就寝よりも3時間以上前に済ませるのが望ましい。

生活習慣を見直せればよいが、個人の都合で残業をなくしたり仕事時間を変えたりするのは難しい。治療では、プロトンポンプ阻害剤(PPI)という薬を処方するのが一般的だ。この薬は、胃壁の細胞に存在し胃酸を分泌するプロセスの最終段階で働くプロトンポンプに結合して分泌を抑える仕組み。「約9割の患者で症状が完全に消える」(警察病院の鈴木副部長)

受診する時間も惜しいからと、酸を抑える市販の制酸剤を服用する人も多いが、PPIに比べ効果が長続きしない場合が多いという。症状をしっかりと抑え込むには医師の診断を踏まえ、PPIの処方を受けるのが望ましいと多くの専門家は指摘する。

症状の出方には個人差があるので、人間ドックで初めて病気がみつかる場合もある。長引く乾いたせき、声がれ、胸やけ、胃もたれ――。最近は消化器を専門としない医師の間でも、こうした症状の多くが胃食道逆流症によるという認識が広がってきた。気になる症状があれば、かかりつけ医に、胃食道逆流症の可能性について聞いてみるのもよいだろう。

(編集委員 安藤淳)

[日本経済新聞夕刊2012年8月24日付]

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