文明 ニーアル・ファーガソン著西洋の優位性 確立した要因を分析

2012/8/20

西洋文明のように「その他」を圧倒した事例は世界史に見当たらない。1500年の時点で、やがて世界に君臨する多くの帝国は地表面積の1割だけを占めていたが、1913年になると西洋の11の帝国が陸地と人口の5分の3を支配し、世界の経済生産高の4分の3あまりを支配することになった。

(仙名紀訳、勁草書房・3300円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 中国やイスラムの文明が凋落(ちょうらく)した原因は、帝国主義の帰結といった単純なものでない。

 著者は、西洋が優位性を確立した要因を6つの面から見直している。

 まず「競争」は、分権的な欧州で高みを目指して発展することを可能にさせた。次いで「科学」は、自然界の変革によって軍事面の優位性をもたらす条件をつくったのだ。「所有権」は法の支配を尊重させ、紛争を平和裏に解決させる点で政府を安定させる基盤となる。また「医学」は、長寿をもたらし、熱帯植民地の疫病への抵抗力を強める要因にもなった。「消費社会」の成立は、衣類などの消費物資の生産を経済の中心に置くことで、産業革命を持続させる根拠となる。おしまいに、プロテスタントの「労働倫理」は、社会活動の規範を提供し社会を安定させる役割を果たしたのである。

 この6つを軸に文明の有為転変を考える著者の見方は、いかにも西洋中心主義のようにも思えるが、文明がいずれ急激に機能しなくなる複雑なシステムだという見方にはペシミズムも漂っている。複雑適応系のような文明は、表面的に均衡を保っているかに見えて、その実は突然に崩壊し消滅するというのだ。現在は、500年に及ぶ西洋優位の時代が終(おわ)ろうとする過渡期であり、経済と地政学の両面で中国やインドなど「東洋の挑戦」が現実化している。

 著者は、中産階級の成長する中国の経済力が日本のように失速する危険にも触れながら、社会不安や周辺諸国の反中国気運によって国力が減退する可能性にも触れる。結局は世界中どこでも西洋流のやり方が普遍的になった事実に満足するのだ。自らの内包する臆病さや気弱さこそ西洋文明最大の脅威だという結論は、壮大な問題提起の割に、やや陳腐な指摘であり惜しまれてならない。

(明治大学特任教授 山内昌之)

[日本経済新聞朝刊2012年8月19日付]

文明: 西洋が覇権をとれた6つの真因

著者:ニーアル・ファーガソン.
出版:勁草書房
価格:3,465円(税込み)

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