ヴァージニア
濃密な色調、コッポラの美
フランシス・F・コッポラが監督・脚本で製作した映画にふさわしい濃密な色調の映像美に見とれた。
『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』など、骨太でときに破天荒な作風でアメリカ映画を牽引(けんいん)した1970年代の彼。90年代も半ばを過ぎた頃、10年ほどの沈黙を置いた彼は作風を変え、趣味的小品『コッポラの胡蝶(こちょう)の夢』『テトロ』を放つ。
そしていまここに到った監督コッポラの出発点は、B級娯楽映画の量産で成功したロジャー・コーマンの下での映画作りだった。
この出自を思い起こすヴァンパイアと、「赤死病の仮面」「大鴉」などで知られる詩人で作家のエドガー・アラン・ポーに出会うのが、寂れた町に著作のサイン会に来た三流オカルト作家ホール・ボルティモア(ヴァル・キルマー)だ。そんな彼に、事務所に杭(くい)を突き刺された死体を保管する保安官(ブルース・ダーン)は、小説の共著を持ちかけた。
新作が書けずに苦しむボルティモアは、この町の奇妙な時計台やポーが宿泊したというホテル、森で出会ったヴァージニア(エル・ファニング)と名乗る美少女に心を奪われていく。
コッポラのイタリア系の血筋を物語るような深い色合いで描かれる現実。その中にするりと入り込むモノクロームに部分彩色した血や、複数の少女の幻影が重なるヴァージニアの赤い唇が彩る夢とも幻ともつかない世界。そこから思い出されるボルティモアの心の痛みと漂う死の匂い。かつてこの町ではヴァンパイアを恐れた者が12人の子供たちを殺している。
書けない悩みを抱え、自身の痛みが作品を生む、と敬愛するポーに教えられるボルティモア。彼の生みの苦しみはコッポラその人のものでもあるのだろうが、監督コッポラの好みがそのまま差し出されたようなこの映画にあるのは、涸(か)れることのないみずみずしさだ。1時間29分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2012年8月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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