ライフコラム

エコノ探偵団

景気良くないのになぜ円高?

2012/8/7 日本経済新聞 プラスワン

「日本は貿易赤字になり、経済活動も振るわないのになぜ円高なのですか」。近所の中学生が海外旅行をきっかけに、為替相場を夏休みの自由研究のテーマにしているという。「確かに難しい質問だね」。探偵の松田章司が調査を始めた。

■海外資産からもお金流入

「円の値段が決まる現場を見よう」。章司がトウキョウフォレックス上田ハーロー(東京都中央区)を訪ねると、丸いテーブルを囲み、マイクに「ロクニー・ウリ・ゴホン」と不思議な言葉を繰り返していた。

章司が驚くと、能村桃子さん(23)が「銀行同士の取引を仲介しています。500万ドルを1ドル=79円62銭で売りたい銀行があるという意味ですよ」と教えてくれた。通貨の値段もモノと同じで需要が増えれば上がり、減れば下がる。章司は「5年前は約120円だったから40円も円高になったんだな」とつぶやいた。

「通貨を売買している銀行で事情を聞こう」。章司が三菱東京UFJ銀行を訪ねると、並んだコンピューターの前で担当者が取引していた。「お客さんである企業の注文に応じて取引しています」。金融市場部の野村拓美さんが説明した。

メーカーなどの企業は海外に売った製品の代金をドルやユーロで受け取り、円に交換する。逆に輸入では支払い用の外貨がいる。保険会社などが、集めたお金を増やすために外国の株や債券などを売り買いするときも貿易と同じく通貨のやりとりが生じる。「銀行は主にこうした取引に必要な通貨を売買しているのです」と野村さんは説明した。

「でも、日本は貿易赤字になったはず。以前は貿易黒字が円高の原因といわれていたから、今は円安になってもいいのに」

シティグループ証券で副会長の藤田勉さん(52)に疑問をぶつけると「経済のグローバル化が進み、『貿易赤字=円安』という常識は通用しなくなりました」と説明した。「どういうことですか」「経常収支が簡単に赤字にならないのです」。経常収支はモノだけでなく、サービスや金融なども含めたお金のやりとりを差し引きしたものだ。

日本の企業や個人は過去に稼いだお金で外国の不動産や株・債券などをたくさん買ってきた。最近は賃金の安い新興国に工場を持ち、利益を得ている企業も多い。海外の資産から負債を引いた額は、11年末で約253兆円と世界最大だ。

海外資産があると賃料や配当、利子などが受け取れる。11年度の貿易収支は赤字だが、これらを加えた経常収支は7兆9000億円の黒字。「日本に入ってくるお金は案外多いんですね」。章司は感心した。

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