アナザー
現代社会の恐怖みなぎる
西部劇やヤクザ映画などある様式に沿って作り続けられる映画をジャンル映画という。作り手は観客が期待する決まり事を課せられるが、そこには時代の空気が色濃く反映するし、作家性に満ちた作品も少なくない。古沢健監督のホラー映画「アナザー」はそんなジャンル映画の快作である。
山間の地方都市の中学校に、恒一(山崎賢人)が転校してくる。恒一はすぐに眼帯をかけた少女、鳴(めい)(橋本愛)に気づく。転居早々に気胸の発作で担ぎ込まれた病院で見かけたからだ。
ところが同級生や教師たちは鳴の存在をまったく認めていない。時おり教室で姿を見かけるのに、座席表にも名前がない。鳴は実在するのか? 幽霊なのか? 恒一は不安になる。
そこにあるものが現実なのか、夢幻なのか。そんな不確かさの表現を映画は得意とする。古沢はその武器を十分に生かす。現れたと思うと、消えている鳴。
鳴と恒一が確かに向き合った時、悲劇が起こる。鳴の存在を隠蔽するルールが明らかになり、生徒と教師たちが恐れる死者の呪いが姿を現す。恐怖にかられた人々は、ルールを破った恒一の存在も否定する。
いじめである。いけにえはゲームのようにくじで決められる。多数派がただ多数派であり続けるために、少数派を犠牲にする。何やら昨今の学校の事件を見るようだが、会社でも地域でも起こりうるだろう。今日の管理社会に潜む恐怖だ。
少数派となった恒一と鳴による真実追求の物語は、次々と悲劇を生みながら展開する。2人が追い詰められているように、多数派側も必死だ。その生への執着があまりにリアルで恐ろしい。古沢は一人ひとりの恐怖心の描写をテコに、社会のいびつさを浮上させる。
綾辻行人の原作小説の恐怖を、映像で語り切っている。学園ホラーの枠を超えて、現代社会の恐怖がみなぎる。1時間49分。
★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2012年8月3日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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