アユを様々な料理で味わう 「郡上のナァ、八幡出てゆく時は、雨も降らぬに袖しぼる」と唄い手の声が夜空に響く。三味と笛、太鼓の音にのり、老若男女が輪になって踊りだす。郡上八幡(郡上市)で約400年にわたり踊り継がれる「郡上おどり」の幕が開けた。
郡上おどりは、郡上藩主であった遠藤慶隆が士農工商の融和を図ろうと、藩内の盆踊りを城下に集めたのがきっかけといわれる。誰でも参加できる踊りとして全国的に人気だ。郡上八幡の各所で9月上旬まで催され、中でも8月13~16日の「徹夜おどり」は、明け方まで続く。
夏は長良川のアユがおいしい。郡上市には駅舎とつながった変わり種の温泉もある。夏の郡上の旅に出た。
名古屋を経由し、美濃太田から長良川に沿うように走る長良川鉄道の小さな車両に乗り込む。車窓からは清流が夏の太陽にきらめいている。長良川は良質の苔(こけ)が豊富で、よいアユが育つといわれている。朝、東京をたち、ちょうどお昼時。木尾(こんの)駅で途中下車し、アユ料理に舌つづみを打つことにした。
立ち寄ったのは「のどかの味処みやちか」。頼んだのはアユづくしのコース。空揚げをかじると香ばしく、かすかな苦味がこれまたいい。珍しい活き造りはコリコリとした食感。塩焼きの身はしっかりとしていて、身離れがよい。ふっくらとたかれた甘露煮は絶品だ。8月上旬から10月まで、目の前の長良川にやなも設置され、食事の際にやな漁体験(無料)もできる。
駅に直結した子宝の湯 ふたたび長良川鉄道に乗り、「みなみ子宝温泉」で降りる。下車する時、ワンマンの運転手さんに「降車証明書」をもらう。これがあると、日帰り温泉「日本まん真ん中温泉子宝の湯」に、なんと50円で入浴できるのだ(通常は500円)。人口重心で日本の中心に近いことと、近くの安産の神様「子安神社」から名づけられた温泉の玄関は駅のホームにあり、列車を降りた人々がすい込まれてゆく。
空に向けてぽっかりと口を開けたような露天風呂はなんとも気持ちがいい。湯質はアルカリ性単純温泉。やわらかな湯で、湯上がりには肌がすべすべになった。湯上がり処でくつろいでいると、玄関に設置された信号機が赤に変わった。列車が近づいてきた印だ。郡上八幡まであと30分の列車の旅だ。
郡上八幡では、町家づくりの中嶋(しま)屋旅館に宿を取った。夕食はついていないので、女将に聞き、浴衣姿で街に繰り出す。町内随所で用水が生かされており涼しげだ。途中、げたを買い求める。もちろん、郡上おどりのためだ。
夏の夜を熱くする郡上おどり 午後8時、ゆっくりとした唄「かわさき」から始まる。輪になって、皆、一心に踊っている。アップテンポな「春駒」では、汗が滴り落ちる。気づくと、輪は二重になり、100メートル以上に延びていた。名残惜しさの涙で袖をぬらす気持ちのわかる、夏の旅であった。
(旅館コンサルタント 井門 隆夫)
▽交通 のどかの味処みやちかは長良川鉄道木尾駅から徒歩15分
▽温泉 日本まん真ん中温泉子宝の湯はアルカリ性単純温泉
▽問い合わせ 郡上市観光連盟(電話0575・67・1808、市役所観光課内)。子宝の湯(電話0575・79・4126)、みやちか(電話0575・79・2160、アユのコースは3種類、写真のものは4200円)、中嶋屋旅館(電話0575・65・2191、1泊朝食付き7350円から〈おどり開催日は8900円から〉)。郡上おどりについては郡上八幡観光協会のサイトに詳しい
[日経プラスワン2012年7月28日付]
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