緑化条例に農園で対応
章司は東京都江東区の湾岸でこの春に開いた大型商業施設、ダイバーシティ東京プラザにやってきた。9階部分の屋上で営業するレンタル農園が目当てだ。
「ホウレンソウ、ニンジン……。いろんな野菜を作っている」。章司がつぶやくと、この農園の企画や管理にかかわる農業総合研究所(和歌山市)の代表取締役、及川智正さん(37)が話し始めた。「借り手は小さな子どもがいる家族や単身の男女です。みなさんプロではないので、作った野菜を売るのではなく、農作業を楽しんでいますね」
このビルを企画した三井不動産の古舘英明さん(42)は「一定の緑化を求める自治体の条例に従いました」と説明した。「緑地にすれば管理費がかかるだけですが、農園にして貸せば収益を得られるのです」
国土交通省によると、温暖化対策で10年ほど前から都市部の緑化を義務付ける条例が全国で増加。開発にともない何らかの緑化義務を課す条例数は2011年3月で約350に達した。
東邦レオ(大阪市中央区)は09年以降、全国で9カ所の屋上レンタル農園を管理・運営する。首都圏では都内の恵比寿駅、荻窪駅、川崎市の川崎駅、名古屋市緑区の鳴海駅にそれぞれ近いビルなどいずれも一等地にある。同社の田村征士さん(33)は「3年ほど前から屋上農園に関心を持つビルオーナーが目立ってきました」と証言する。
2月に竣工した東京都世田谷区の賃貸マンション屋上の農園は入居者の募集にひと役買う。埼玉県から引っ越してきた主婦の細川さわみさん(36)の一家がここに決めた要因は屋上農園だ。「野菜嫌いだった小学1年の息子が自分で育てたキュウリを食べるようになりました」と満足する。
農林水産省に聞くと、市民農園は11年3月末が3811カ所で04年3月末より3割以上増えた。これは屋上農園を含まない。だが、同省の担当者は「需要が高い都市部で土地が足りません」と述べ、屋上農園も同様に増加中だと示唆した。