ヘルタースケルター
大衆の欲望のスペクタクル
トップスターにはいつも時代の欲望が反映する。
この映画のヒロイン、全身整形で完璧な容姿を作り上げた、りりこ(沢尻エリカ)はまさに大衆の願望が作りあげたモンスターのような存在だ。りりこもまたそのことを十分に理解している。その上でトップスターであり続けることにすべてをかけて生きている。
若いライバルをつぶしにかかる。狙っている恋人を手に入れるためにあえて関係をリークする。整形手術の後遺症が肌をむしばみ始めると、手術を重ね、より強い薬を服用する。すべて自己実現のためだから、迷いはない。うまくいかないときには付き人に狂ったように当たり散らす。
エゴイズムの権化のような女だが、それが大衆の欲望なのだ。テレビや雑誌を通してあこがれる、なりたいけど、なれない夢の女。だから人々は喝采を送る。
岡崎京子が同名の原作漫画で描いたそんな女を、写真家の蜷川実花監督が撮った。この過激な表現主義者は、大衆の欲望をそのまま画面いっぱいに描き出す。資本主義に毒された東京の風景も、装飾過剰で極彩色のりりこの部屋も、薬漬けのりりこの幻覚も……。
それらはりりこの美が人工的かつ表層的であるように、極めて人工的で表層的な世界である。自然さとか奥深さとは縁遠い。りりこにも焦りやねたみの感情はあるが、心の揺れは見えない。少なくとも説明しない。すべては表層的な容姿と具体的な身ぶりに表れる。
蜷川はそんなりりこの物語を徹頭徹尾、表層にとどまって描き出そうと決意したように見える。全速力でツルツルの世界を滑り続けることで、りりこの生きざまと大衆の欲望をまるごととらえ、視覚化する。
いわば見せ物である。大衆の欲望のスペクタクル。それがりりこの物語と二重写しになっている。蜷川の資質が鮮明に表れた問題作。2時間7分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2012年7月13日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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