新橋演舞場7月公演仁にも合い優れる新猿之助

2カ月目の澤瀉(おもだか)屋4人襲名興行。初代猿翁・三代目段四郎五十回忌追善でもあった先月と違い、「口上」も5人だけという簡素さ。団十郎の披露目の言葉もユーモアに富み、行書の趣。猿之助・中車という名跡も市川の門流であることを示す柿色の裃袴(かみしもはかま)に鉞銀杏(まさかりいちょう)の髷(まげ)の5人が並ぶのも、簡素で男性的な家柄らしい美しさだ。

ここには列座しない新猿翁は夜の部切りの「楼門(さんもん)」に久吉役で8年ぶりの舞台復帰。もう一つの披露というべきこの1幕に、ありきたりの批評は無用だろう。五右衛門役で花を添える海老蔵は親玉というより兄貴という感じ。

以上が祭事とすれば、襲名の実質はまず新猿之助が挑む家の芸「黒塚」。家の芸といっても、初代猿翁が安達原の鬼女伝説を物語る謡曲を土台にロシアンバレエの技法を取り入れた新舞踊。初演も1939年という新しさに澤瀉屋という家の進取の精神が象徴される。旅の高僧により仏果を得て解脱できる喜びを月光の下で踊る第2景が眼目だが、新猿之助は仁(にん)にも合い優れている。鬼の本性を現す第3景は激しい怒りをむき出しにする男性的な踊りで、初代・二代猿翁とは仁も芸質も違う新猿之助としては単純に比較されるのは不本意だろう。総合すれば初役としては立派な成果だ。

新中車は真山青果作「将軍江戸を去る」の山岡鉄太郎。全体としては優に及第点だが、中段の慶喜との応酬にもっと綾(あや)がほしい。その辺に歌舞伎俳優中車としての課題がある。団十郎が以上2演目に受けの役を勤め、大人(たいじん)の風格だ。

先月から続演の「ヤマトタケル」は新猿之助が一層役を掘り下げ、戯曲の骨格を鮮明にした。初演以来最も優れた舞台。29日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)

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