崖っぷちの男
これぞ娯楽映画の爽快感
ダイヤ横領犯が脱獄。マンハッタンの老舗ホテルの窓の外の縁に立ち、自殺を匂わせながら無実を訴えて市警察の交渉人を呼ばせるこの男、『アバター』のサム・ワーシントン演じる元警官ニック・キャシディの真の目的は何か?
脱獄囚にかき回されて始まるドラマは、パブロ・F・フェンヤヴェシュのすぐれた脚本を得てドキュメンタリー畑出身アスガー・レスが長編劇映画デビューを飾ったサスペンス劇。凝った仕掛けのドラマをキレの良い演出が予想外の着地点へと導いて、娯楽映画とはこれ、の爽快感がある。
交渉相手を死なせた過去に傷つく交渉人マーサー(エリザベス・バンクス)は、自分を呼んだ相手の真意を測りかねた。自殺するのになぜ呼んだのか?
ニックと向かい合う建物は彼が盗んだとされるダイヤの持ち主イングランダー(エド・ハリス)が所有し、今日、彼はここに現れる。いまこのビルの屋上から一組の男女が爆薬を使って内部に侵入を試みていた。
さて、ここから計算しつくされた計画が本格的にスタートを切る。建物の21階の外壁の縁に立つ男が見下ろす地上には、野次馬(やじうま)の群れと取材のTVクルーがいる。向かいの建物の侵入男女はじゃれあいながらも監視カメラに静止画をはめ込み、温度センサーを消火器で冷却、と思いのほか知恵が廻(まわ)る。ニックを包囲する警官の中には彼の親友もいるが、突入・射殺でケリをつけたい者も混じって何か裏がありそうだ。
すべての要素が1本の線で結び合わされてドラマの中盤からは一気呵成(かせい)の盛り上がり。小さな役にもベテラン俳優が巧みに配置されているのを確認しつつ、ニックの弟役で見る者の目を釘(くぎ)づけにして欺くジェイミー・ベルの行動を思い返してにやり。手造り感たっぷりのこの家族ゲーム、仕掛けは見てのお愉(たの)しみ!
1時間41分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2012年7月6日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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