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エコノ探偵団

都市部でも深刻「空き家問題」 税制に原因も

2012/7/3 日本経済新聞 プラスワン

「近所のうちが長い間、空き家のままなの」。探偵、深津明日香の友人が相談を持ちかけた。建物が古く地震で崩れるのではと不安だという。「便利な場所だし買い手は付きそうなのに」。不思議に思った明日香は調査を引き受けた。

■更地は税金6倍、家主敬遠

「まずは現場ね」。明日香は、昨年、倒壊の恐れがある建物の持ち主に解体を勧告できる条例を作ったという東京都足立区の住宅地を歩いてみた。駅から徒歩10分。普通の家の間に、柱や壁が傷んだ古い家屋が建っている。「防犯上も不安を感じる人がいそうだわ」

明日香は足立区役所を訪ねた。「登記上の持ち主に改善を求める文書を送っても、返事がこないことがあります」。建築安全課長、吉原治幸さん(51)が明かした。所有者が亡くなって親族が相続したのに、書類を書き換えていないケースもあるのだという。

足立区ではここ4~5年、空き家の苦情が目立つようになった。ある老朽家屋で壁面がはがれ、歩道に落ちたことをきっかけに解体を勧告できる条例を制定。解体する人には木造で50万円、非木造で100万円の補助金を出す制度なども設けて効果が出始めているが、持ち主が分からないと対応が難しいという。

明日香は他の自治体にも問い合わせてみた。千葉県松戸市の場合でも「東日本大震災以降、空き家についての通報が増えた」という。同市でも今年4月、住民に空き家の解体を促す対策条例を施行。埼玉県所沢市など全国で50を超える自治体が条例を設けている。

明日香は住宅を調査している国土交通省に向かった。「空き家は増えています」。住宅政策課の企画専門官、渋谷浩一さん(48)がグラフを見せてくれた。直近の2008年の調査では、757万戸と10年間で約3割増えた。「原因は」「世帯数の伸びの鈍化や少子高齢化が影響しています」。渋谷さんは説明した。

「古い家が余り始めたのね。でも、なぜ放置されるのかしら」。明日香はみずほ信不動産販売の北千住センターに足を運んだ。所長の家田博之さん(42)は、「地元の空き家の持ち主にダイレクトメールを送ったところ、2~3年たってから相談が来ました」と話す。「相続人が複数いると話がまとまらなかったり、手続きが面倒で処分を先送りしたり、処分が遅れるケースが多いようです」と事情を説明してくれた。

明日香は成蹊大学を訪れ、不動産経済学が専門の井出多加子教授(55)にも話を聞いてみた。

井出さんは「固定資産税の仕組みが一因と言われています」と説明する。古い家屋が建つ土地を売却するには、更地にする必要があるが、解体費用がかかる上、建物がなくなると固定資産税が6倍に跳ね上がる。

すぐに売る必要がない所有者側にとっては「高く売れなければコストをかけにくい」と井出さん。新しい需要を掘り起こすには、住宅地でも介護施設などの事業所を建てやすいように規制緩和をしないと、根本的な解決は難しいという。

「市場の仕組みに問題がありそうだわ」。明日香は、明海大学不動産学部の前川俊一教授(61)を訪ねた。前川さんは「そもそも不動産市場は一般的な市場原理が働きにくいのです」と説明する。

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