「最近、お酒売り場に並んでいるノンアルコール飲料の種類が急に増えたわ。なぜかしら」。近所の主婦からナゾが持ち込まれた。「飲酒運転対策で注目を集めたけど、事情が変わってきているのかな」。探偵、松田章司が調査に乗り出した。
宴会や接待、昼にも広がる
「こんなに増えているとは」。近所の食品スーパーを訪れた章司は驚いた。ビール風だけでなく、濃厚な梅酒風、チューハイ風、カクテル風など色とりどりの商品が店頭に並ぶ。未成年の飲酒につながらないよう清涼飲料水とは区別されているが、どれもアルコール度数は0%だ。
「背景は何だろう」。まず章司はサントリー酒類を訪れた。同社は今年のノンアルコール飲料の市場規模は前年比22%増の約3450万ケース(1ケースは250ミリリットル缶24本換算)にのぼるとみている。2009年と比べ3倍以上だ。7月にはキリンビールとサッポロビールがチューハイ風に参入、ビール大手4社がカクテル・チューハイ系で出そろう。
「発泡酒や低カロリーカクテルなどの開発で蓄積したノウハウを生かし、昔より味が良くなったからです」と同社の山田真二さん(55)が教えてくれた。お酒っぽい香りを作り込み、アルコール独特の味を再現する技術は共通部分も多い。「それが商品開発で花開いたのか」
さらなる理由を探りに章司はキリンビールに向かった。「昔はビール代わりにする男性が多かったのですが、消費者が広がっています」と梶原奈美子さん(30)。目立つのが主婦の利用。食事の後片付けや子供の送り迎えなどが気になる時でも晩酌や宴会につきあえると人気だ。さらに若手社員などは、忙しい時などに自宅でお酒の気分を楽しんでいるのだという。
事務所に戻って調査資料をまとめていると、所長がヒントを投げかけた。「近ごろ飲み屋街に行くと、昼間の宴会プランの広告をよく見かけるぞ。関係があるんじゃないか」
情報を確かめに飲食店運営のコロワイドに向かった。同社の居酒屋チェーン「北海道」では、10年から昼間は無料で飲み放題をつけられる昼宴会プランを展開している。今年は来店客の1割強が昼間になる見通しという。
「誰が昼間から宴会するんですか」。驚く章司に大野健一さん(38)が教えてくれた。「意外な使い方があるんですよ」。例えば退職した団塊世代などが増え、帰りの交通手段を気にしなくてすむ昼間に同窓会を開くという。さらにビジネス用途では「個室で会議後に宴会も開けるプランも好評」という。企業側も複数の店を訪れる夜の宴会より、経費を抑えられるメリットは大きいようだ。「仕事とはいえメタボ健診に備えて健康に気を配る人も増えているし、確かに合理的かも」と章司はうなった。