ドッグマザー 古川日出男著血統と動物、最後の1行で謎解き

2012/6/8
(新潮社・1700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

古川日出男の小説には朗読のリズムがいつも宿る。だが、この小説ではリズムが目立たない。代わりに小説の表舞台に出てくるのが、血統と動物だ。いや、古川の小説に馴染(なじ)みのテーマではないか、と思われるかもしれない。だが、この2つが絡まり合いながら、天皇と国家の問題に独自の仕方で切り込む、という小説は、古川の小説をすべて集めて凝縮したものと言える。

 3部から成る。主人公の青年「僕」が老犬の「博文」を連れて、京都へ旅行する前半。京都でモデルの仕事をしながら、徐々にディープな京都へ肉薄する主人公。ここまでが東日本大震災以前に書かれている。

 第3部では事情は変わっている。前世を売る謎の「教団」の女院主と関係し、その姉弟たちと出会う。「僕」は京都で「聖家族」を作ろうとしている。東京にいる家族たちとは別に。

 「僕」が京都で作ろうとしている「聖家族」とは何か。なぜ京都なのか、どうして「教団」なのか。小説の最後の1行を読むと、その謎が解ける(だからできるだけ最後を読まないで読み進むことを勧める)。そして古川が困難な場所にいることに気づくのだ。

(批評家 陣野俊史)

★★★★

[日本経済新聞夕刊2012年6月6日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

ドッグマザー

著者:古川 日出男.
出版:新潮社
価格:1,785円(税込み)