クルマ、家庭…水素は世の中を変える?

「水素が住まいやエコカーの発電燃料になるんですね」。近所の主婦が事務所で問いかけた。「環境にも優しく、エネルギーの主役になるって聞いたわ」。「水素が世の中を変えるの?」。興味を持った探偵、深津明日香が調査を始めた。

明日香は日本ガス協会を訪ねた。「家庭用燃料電池のエネファームのことですね」。速水征志技術開発部マネジャー(48)が説明を始めた。燃料電池とは水素と空気中の酸素を反応させて発電する装置。エネファームは都市ガスの主成分であるメタンを触媒反応で、二酸化炭素(CO2)と水素に分ける。取り出した水素で発電し、一緒に出る熱でお湯も沸かす。東京ガスや大阪ガスなどが既に約2万台を販売。東日本大震災後の電力不安を背景に、今年は1万5千台は売れそうな勢いだ。

補給所に課題

「開発には家電や自動車のメーカーも参加しています」と速水さん。「自動車メーカーが?」。不思議に思った明日香はトヨタ自動車を訪ねた。

「我々も燃料電池で走る車を開発しているのです」。広報部の中井久志担当部長(53)が話した。燃料電池車は車に積んだ水素と空気中の酸素を反応させて生み出した電気でモーターを動かす。さらに同時につくられた水だけを車外に出すので“究極のエコカー”ともいわれる。

「でも、電気自動車と違い街で見かけませんよ」。明日香が聞くと「2015年に一般販売する予定です」という。燃料電池車は走行距離や燃料補給にかかる時間がガソリン車並み。「価格も1千万円以下にできそう。たくさん売れればもっと安くなります。あとは水素を補給する水素ステーションの普及次第です」

明日香は東京都杉並区にある水素ステーションを見学に行った。JX日鉱日石エネルギーの水素事業化グループ担当マネージャーで所長の竹村哲治さん(55)が車に水素を入れる様子を見せてくれた。「爆発しませんか?」と尋ねると「きちんと対策をしているので大丈夫」と竹村さん。

導管などにガス漏れを検知する数種類のセンサーを取り付け、敷地を厚いコンクリート塀で囲って安全を確保している。そもそも水素は最も軽い気体なので漏れてもすぐ拡散し、ガソリンと比べて特に危険性が高いわけではないという。「水素ステーションは15年までに主要都市100カ所にできる予定です」。燃料電池車に乗せてもらったところ「静かで加速がスムーズね」と明日香は思った。

「水素の利用で節電が進み、自動車の騒音や環境への対策にもなりそうです」。報告すると、所長が首をひねった。「それだけか?ほかにも取り組みがありそうだ。もっと調べてみろ」

太陽光も利用

明日香は埼玉県庁を訪ねた。駐車場の一角にある水素ステーションの前で待っていたのは本田技術研究所の主任研究員、岡部昌規さん(46)。「このステーションは太陽光発電で水を分解して水素を作り、車に供給できるんですよ」

ホンダが埼玉県庁に試験的に納めた公用の燃料電池車に水素を補給し「使い方の可能性を探っています」。例えばコンセントの差し込み口が付いた持ち運び可能な電流変換装置につなげば「車で作った電気を災害時や野外イベントでも使えます」。一台で一世帯の約6日分に当たる電気を賄えるのだという。

「水素は身近な都市ガスや自然エネルギーを利用して作れるし、家庭用から車両用まで使い道が広がっているんですね」。さらに明日香は、水素を町全体で利用している場所があると聞き北九州市に飛んだ。