私が、生きる肌
形成外科医の秘密巡るミステリー
ペドロ・アルモドバル監督はアカデミー外国語映画賞を得た『オール・アバウト・マイ・マザー』で家族の絆を描く一流作家という評判を得たが、元来は派手な仕掛けをちりばめつつ、スキャンダラスなお話を見せる技巧派だ。主題や思想など二の次三の次、あざとくケレン味たっぷりの演出が身上である。
本作『私が、生きる肌』では、愛や家族のテーマによる感動はすっかり影をひそめ、あざとい技巧のアルモドバルが完全復活した。職人芸の本性に戻って面白い物語作りに徹したことをむしろ歓迎したい。
主人公は形成外科医のロベル(アントニオ・バンデラス)。ロベルは皮膚移植の世界的な権威だが、彼が住む瀟洒(しょうしゃ)な邸宅には秘密があった。そこには全裸と見紛(みまが)う肌色のボディストッキングで体を覆った美女ベラが幽閉されているのだ。
ある日、虎のコスチュームに身を包んだ暴漢が邸宅に侵入し、ベラを縛りあげて犯そうとする。暴漢はロベルと深い関係にある男で、この男の行動には、ロベルの妻ガルの運命が関わっていた。
かつてガルは火事で全身に大火傷(おおやけど)を負い、自らの姿に絶望して自殺したのだ。ロベルと美女ベラ、そして暴漢と亡妻ガルをめぐる複雑な過去が徐々に明らかになっていく…。
文句なしにスリリングなミステリーで、2時間の長さだが、まったくダレ場がない。演出と編集が巧みな上に、いかにもアルモドバルらしいペカペカ輝くような色彩設計も堂に入って、スタイリッシュな映像美学がお好みの観客にもアピールするだろう。要するに、きわめて上出来のエンタテインメントなのである。
だが、決してネタを割れない最重要のトリックがあって、それが物語のキモなのだが、映像で見せるとどうしても嘘臭い話になってしまう。そこが弱点といわざるをえない。
★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2012年5月25日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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