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住宅ローン、借りづらくなった? 適齢世代の返済力を疑問視 エコノ探偵団

2012/5/13 日本経済新聞 プラスワン

「最近、住宅ローンを借りづらくなっているそうだよ」。道行く若いサラリーマンの会話を聞いていた松田章司は思わず「えっ?」と口にした。将来はマイホームを持ちたいと考える章司は「低金利時代なのに」と、その場で調査に乗り出した。

若手のサラリーマンたちが紹介してくれたのは中堅メーカーの正社員で30代のYさん。約2500万円の中古マンションの購入を希望し、500万円の頭金を用意。残りをA銀行の住宅ローンで賄う予定だった。A銀行は「年間返済額が年収の35%以内」と審査基準を公開している。年収は約400万円で「基準を満たしているはずなのに審査に通りませんでした」とあきらめきれない様子だ。

■信用調査に力

そこで向かったのは法律事務所。リーガル池袋法律事務所(東京都豊島区)の弁護士で、フィナンシャル・プランナーの肩書も持つ小林幸与さん(58)によると、住宅ローンの審査に通らず「なぜ断られたのか」と相談に来る人が増えているという。「銀行は審査に通らなかった理由を本人には伝えません。年収だけでなく、勤続年数や勤務先の信用力などもチェックされています」。Yさんの場合、転職を繰り返してきた職歴がマイナス材料になったようだ。

次に不動産会社の門をたたいた。三井不動産レジデンシャルの契約コンサルティング部グループ長の鈴木明彦さん(52)は「銀行は住宅ローンの売り込みに熱心で、勤務先が安定している方の契約は順調です。半面、派遣社員の方などには厳しくなったかもしれません」と微妙な変化を感じ取っている。東急リバブル流通事業本部の営業推進課長、柏嶋秀行さん(48)も「借り手の信用調査を従来より慎重にしているようです」とほぼ同じ感触だ。

事務所を訪れた日本リサーチ総合研究所主任研究員の藤原裕之さん(43)が教えてくれた。「住宅ローン適齢期とされる30~40歳代の所得が減ったり、雇用が不安定になったりして返済能力に疑問符がついているのでしょう」

■何とか黒字に

経済学には、個人は生涯所得を予測して現在の消費を決めるという「ライフサイクル仮説」と呼ばれる理論がある。日本人の根強い持ち家志向と、年功序列制度のもとで現在の所得は低くても将来の収入増を見込める賃金体系にも支えられ、日本の住宅市場にはこの発想がよくあてはまるとされてきた。「持ち家志向は今も根強い」(東急リバブル)ようだが、「安定収入という前提が崩れてきたのでは」と藤原さんはみる。

「でも銀行に行くと、住宅ローンを推奨するパンフレットが並んでいるぞ。なぜ銀行は住宅ローンの契約に熱心なんだろう」。銀行に問い合わせると、三菱東京UFJ銀行リテール業務部の荻野俊介さん(42)が答えてくれた。「低金利だと銀行の金利収入も減りますが、銀行が資金を運用する対象の中では依然、国債などに比べて利回りが高いのです」

業界推計によると、銀行の住宅ローン金利は直近で平均年1.8%。人件費や資金調達コストなどを除いた利ざやは年0.5~0.6%程度で何とか「黒字」を確保している。

りそな銀行ローン営業部長の後藤修さん(49)も「住宅ローンには給与振込口座など幅広い取引につながる利点もあります」と力を込める。国土交通省の調べでは、2011年3月末時点で農業協同組合などを含む民間金融機関による国内の住宅ローンは730万件、残高は123兆円に上った。ただ、その後も契約は高水準を維持しているものの、新規の顧客向けローンは減っているもようだ。

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