わが母の記大家族の情景、形作る昭和

「金融腐蝕列島・呪縛」「クライマーズ・ハイ」といった、人間集団ドラマ造型に新境地を見せていた原田眞人監督が、井上靖の自伝的小説を自分のシナリオで映画化した新作である。

東京・丸の内ピカデリーほかであす公開(C)2012「わが母の記」製作委員会

小津安二郎をはじめとする松竹大船撮影所系の映画監督たちへの、オマージュをこめて作られた一作だ。そして、原作者がモデルの小説家(役所広司)一家の登場人物群像を配した、ルキノ・ヴィスコンティ映画風の、大家族ドラマになっているのが、実に面白い。

それも静岡県沼津市生まれで、今年63歳の原田監督が、自分が育った南関東の土地への愛着をこめて、日本的な風土感を克明に、カラー・ワイド画面に描きこみながら、それをやっているのが、とてもいい。

伊豆の実家の日本家屋、東京の世田谷にある実際の原作者の和風の家、川奈のホテル、軽井沢の別荘などを使い、海や山や自然の景観を生かして、大家族が集う生活空間の祝祭的情景が、いわば昭和という時代の映像のスペクタクルを、形成していくのだ。

それら全体を貫く縦糸になるのが、主人公と物忘れの症状をみせはじめた老母(樹木希林)との関係である。戦時中からの幼年期の8年間、曽祖父の愛人の老女に育てられた過去を持つ主人公は「母に棄(す)てられた」という感情を強く持っている。その思いがある時に晴れるまでのプロセスが、全篇を支える主題となる。

厳密にいえば、多くのエピソードを、少々詰めこみすぎた点や、主題設定がやや単純にすぎるあたりに、問題もなくはない。だがそこは、映画全体の、スケールの大きなドラマ展開の魅力に免じて、沈黙しよう。

主人公と三女(宮崎あおい)の間に流れる微妙な心理の葛藤や、控えめな妻(赤間麻里子)の存在の造型などが、傍系のエピソードとして、面白い。日本映画久々の見るべき秀作だ。1時間58分。

★★★★★

(映画評論家 白井 佳夫)

[日本経済新聞夕刊2012年4月27日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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