労働力が減少

団塊世代の退職で技能継承などがうまくいかない可能性も出てきた

「ずいぶん色々な『2012年問題』があるんだな。企業が一斉に動くと、必ずしもプラス面ばかりではないようだ」。章司は認識を新たにしながら、ニッセイ基礎研究所を訪ねた。主任研究員の斎藤太郎さんは「日本経済への影響という観点では、団塊世代の大量退職が本格化するインパクトが最も大きいでしょう」と説明を始めた。

第2次大戦後、1947年から49年に生まれた「団塊の世代」は、ほかの世代に比べて人数が非常に多い。企業に勤める47年生まれは07年に60歳の定年を迎え、大量の退職者が発生する「2007年問題」として話題になったが、実際には定年年齢の引き上げや雇用延長、再雇用などの制度導入で、退職者はそれほど多くなかったとされる。

しかし、雇用延長などは「65歳まで」とする企業が多く、47年生まれの人が65歳になる今年が、団塊世代の大量退職が本格的に始まる年になるとみられる。ニッセイ基礎研の斎藤さんは、「労働力人口が大幅に減ることになれば、日本経済の活力低下につながりかねない」と懸念を示す。

みずほ総合研究所主任研究員の大嶋寧子さんにも聞くと「特に中小の製造業では生産現場で働く60~64歳の割合が高い傾向にあります。熟練技術者の技能が若い世代に伝えられないまま退職すれば、日本の産業競争力が低下するかもしれません」と解説してくれた。

消費はプラス

「あまり明るい話ではなさそうだな」。章司は最後に、三菱総合研究所に向かった。シニアエコノミストの武田洋子さんに話を聞くと「日本が活力を取り戻す道はありますよ」と意外に力強い言葉が返ってきた。

武田さんが期待するのは「シニア層の消費市場の拡大」だ。団塊世代の大量退職は労働力の減少をもたらす一方、健康・医療関連や娯楽などの分野で新たな需要を生み出す。武田さんらの試算によれば、国内の65歳以上の消費額は2010年に87兆円だが、25年には138兆円まで増える。65歳以下も含めた名目家計消費の合計も、10年の285兆円から25年の330兆円へと16%増えるという。

1990~2011年の消費支出も、50歳代以下のすべての世代の支出が一貫して減少傾向なのに対して、60歳以上の11年の支出額は90年を5%程度上回る水準だ。「高齢者は、財布のひもを締めてはいません。シニア層の需要を取り込みつつ、労働力は女性の活用などでカバーすることが今後の日本の課題です」と武田さんは付け加えた。

「団塊世代の大量退職は課題もありますが、悪い話ばかりでもなさそうです」。章司が事務所に戻って報告すると、所長は「シニア層がお金を使うことも大事なんだな」とうなずいた。そこで章司はすかさず一言。「日本経済のためには、リタイアする前からお金を使った方がもっといいですよ。今夜は所長のおごりで飲みに行きましょうね」

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