犬から見た世界 アレクサンドラ・ホロウィッツ著独自の繊細な理解の仕方を解明

2012/4/10

「犬は人間の最良の友」という。この言葉が示すとおり、犬はペット・牧羊犬・盲導犬などというように、私たちと近しい動物である。犬は私たちの目を見つめる。舌を出して語りかける。「いったい、何を考えているの?」という問いは、犬の飼い主に対しては愚問かもしれない。でも、その関係の深さゆえ、人間はつい犬の態度・行動を私たちと重ね合わせ、擬人化して解釈しがちだ。しかし、実際はどうであろうか?

(竹内和世訳、白揚社・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 本書は、認知行動学者・心理学者であり大の愛犬家である著者の、8年に及ぶ研究の集大成である。その研究の結果わかったことは、犬は人間が想像もしなかった複雑な「環世界」を生きているということだ。犬は優れた嗅覚を利用して、その鼻で世界を「見る」。そして人間よりも広い範囲の音を聞きとることができる耳を用いて、身のまわりを察知する。そして犬独自のしかたで、私たち人間のことを理解している。それも驚くほど繊細に。

 話題は、著者の専門である認知行動学・心理学のみならず、神経科学・遺伝子学などと、縦横無尽にかけめぐる。ときに、他の動物……特に人間、それも幼児の発達段階と比較する箇所は興味を引かれる。専門的な内容ではあるが、著者と愛犬との物語が随所に挿入されているので、構えることなく読み進めることができる。そして、犬は人間と強固な絆を作り上げている一方で、明らかに人間とは違う独自の環世界を持つことが、順を追って解き明かされてゆく。

 犬を科学すると、犬と私たちの世界に水をさされて興ざめになってしまうだろうか? そんな心配はない。本文に書かれている通りだ。「リードを握る手をちょっと休めて、彼らを科学的に見てみよう。そうしたからといって、犬の魅力は変わらない。(中略)科学はわたしたちを犬から遠ざけはしない。それどころか、これによってわたしたちは犬の真の性質により近づき、驚異の念を抱くことができる。」

 ぜひ、本書を通して犬の環世界に飛び込んで、そこに浸っていただきたい。愛犬家はもちろん、そうでない方にもおすすめしたい良書である。

(サイエンスライター 内田麻理香)

[日本経済新聞朝刊2012年4月8日付]

犬から見た世界―その目で耳で鼻で感じていること

著者:アレクサンドラ ホロウィッツ.
出版:白揚社
価格:2,625円(税込み)


今こそ始める学び特集
今こそ始める学び特集