僕達急行
朗らかな喜劇映画の味わい
「家族ゲーム」や「失楽園」などの森田芳光監督が「武士の家計簿」に続いて手がけた新作だが、残念なことに遺作となった。
森田監督が十数年前から温めてきたオリジナル脚本の映画化。鉄道ファンの2人の青年を主人公に、彼らの仕事と恋の騒動をコメディータッチで描いた心温まるドラマである。
不動産開発の大手企業で働く小町(松山ケンイチ)は、大の鉄道ファン。そんな彼がひょんなことから同じく鉄道好きの小玉(瑛太)と知り合う。小玉は下町の鉄工所の息子で、小町は鉄道が眺められるという理由で彼の会社の寮に住み込むことになる。
やがて小町は社長の指名で九州支社に転勤。九州には会社がこれまでアプローチできなかった食品会社があり、その担当を任せられる。ところが、社長が鉄道マニアだったことから意気投合。しかも社長が欲しい果実絞り機の製造を小玉が請け負ってくれたため、仕事は好転する……。
そんな物語がユーモアを漂わせながら展開する中、恋の騒動が絡んでいく。小町には通勤途中で出会ったあずさ(貫地谷しほり)と社長秘書のみどり(村川絵梨)が好意を寄せ、小玉は見合いしたあやめ(松平千里)に一目惚(ひとめぼ)れ。だが、2人ともナイーブで純情な性格から恋の進展もなかなか覚束(おぼつか)ない。
大手デベロッパーの営業マンと、技術はあるが資金がない町工場の技術者。何やら日本の産業界を象徴するかのような主人公たちの職業であるが、揃(そろ)って物流の基幹であった鉄道のオタクという設定は面白い。
森田監督の気負いのない演出の下で、そんな2人がゆったりとした台詞(せりふ)回しや間合いを取りつつ、仕事や恋に朴訥(ぼくとつ)に対応する姿はユーモラスである。その明るく朗らかな雰囲気は、昔の喜劇映画の味わいにも似て十二分に楽しめる。1時間57分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2012年3月16日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。