効率と公平を問う 小塩隆士著再分配制度の実態を分かりやすく

2012/3/12

誰の目にも日本の財政や社会保障が持続可能でないのは明らかだ。生涯を通じた税・社会保険の受益と負担を計算した研究によれば、現在の高齢者は約4000万円の受益超過、将来世代は8000万円以上の負担超過になる。このような大きな格差が存在するにも関わらず、税や社会保障制度の改正は進まない。誰が首相でも増税を進めると支持率が下がり、選挙で負けてしまうからだ。

(日本評論社・1900円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 著者の小塩氏は、これを「民主主義の生物学的限界」と呼ぶ。民主主義では、人口が増加していると若い世代が意思決定権を持つので、現在の世代の選択は将来世代の利害と一致する。しかし、人口が減少していると高齢者が意思決定権を持つので、将来世代が不利になる政策が取られる。つまり「将来世代の利益を考慮した制度改革を、民主主義の意思決定ルールが阻止する」のである。

 では民主主義の生物学的限界は超えられないのだろうか。高齢世代が将来世代への利他性を強めるか若年世代が税・社会保険料負担を拒むことが、制度改革の契機になる可能性はある。著者はこれらの実現可能性には「自信が持てない」と述べながらも、大震災で私たち日本人が「困っていない人が困っている人を助ける」という崇高な行動を取ることができたことに希望を見いだしている。

 実は、本書全体のテーマは現在の日本の税や社会保障が「困っていない人が困っている人を助ける」ものなのか否かを検証していくことにある。著者の答えは「ノー」である。効率性や公平性について、経済学の立場から非常に分かりやすい整理がなされた後で、日本の再分配制度の実態や教育の効果について著者自身の研究成果が紹介されていく。

 人々は所得が低下していると格差が拡大していると認識しやすい。中高一貫進学校の大学合格実績は、入学時の学力に加えて、総授業時間数で説明できる。子ども時代に貧困であれば、大学を卒業する確率が約20%低くなり、貧困に陥る確率も約4%高くなる。ここで示された事実を私たちの共通知識にすることが、民主主義の生物学的限界を克服するための第一歩だろう。

(大阪大学教授 大竹文雄)

[日本経済新聞朝刊2012年3月11日付]

効率と公平を問う

著者:小塩隆士.
出版:日本評論社
価格:1,995円(税込み)


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