生きてるものはいないのか
災禍を前に生と死を問う
石井聰亙改め石井岳龍監督が「五条霊戦記GOJOE」以来、約10年ぶりにメガホンを握った劇場向け新作だ。原作は前田司郎の岸田國士賞を受賞した戯曲。大学と付属病院を舞台に、人々が次々と謎の死を遂げていくという不条理なドラマを淡々と描いている。
舞台は、病院を併設する大学とその周辺。ケイスケ(染谷将太)が働くカフェで1人の男を巡って2人の女が争い、キャンパスでは都市伝説を研究する男女学生がたむろし、また刑務所帰りの男が病院で働く義理の妹を訪ねるなど、様々な人物とエピソードが交差していく。
人々の耳に交通機関が事故で不通になったニュースが伝わる。やがてキャンパスで学生が倒れ、カフェで三角関係から争う男女が死に、また病院でも人々が苦しんで次々に死んでいく。原因は謎のまま。生きている人々はパニックになって逃げ惑うだけだ。
前半は学生たちの会話が生き生きと描かれ、これまでの石井監督の映画とは一味違う世界になっている。しかも人物たちのシリアスな台詞(せりふ)や行動は、彼らの機械仕掛けの人形に似た死に様とギャップを生じて、ブラックなユーモアを醸し出して面白い。
後半は生き残った人々が次々に死んでいく姿を心理を排して描いていくが、細かいカットで丹念に編集し、人物たちの姿を分割スクリーンで隠すなど、単調になりがちな画面に視覚的な起伏を与える試みをして好感が持てる。
映画は昨年の3.11以前に完成したというが、それでもラストで1人きりになったケイスケが世界を見つめる姿に、震災による被災者のイメージが重なる。人間の力では如何(いかん)ともしがたい災禍を前に、人々の生と死を改めて問いかけているように思える。1時間53分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2012年2月24日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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