pinaダンサーの肉体、鮮烈に

ピナ・バウシュはヴッパタール舞踊団を率いたドイツの天才女性ダンサーだ。監督ヴィム・ヴェンダースはピナの舞台の記録を3Dで撮ることを決意する。だが2009年、撮影開始の2日前にピナは急死する。本作は、彼女の不在を乗りこえて、ヴェンダースが実現した独創的な舞台芸術のドキュメンタリーである。

(C)2010 NEUE ROAD MOVIES GMBH, EUROWIDE FILM PRODUCTION

今や3Dにも食傷気味だが、単なる見世物効果を追う多くの映画と違い、この作品の3Dには目を見張った。舞台に深い奥行きを作りだし、そこを縦横に動きまわるダンサーたちの肉体を異様に鮮烈に捉えているからだ。ここには現実を超えるリアリティがあるといいたくなるほどだ。

クライマックスは「フルムーン」という舞台を再現した部分で、この作品では現実の水が大量に使われるのだが、役者の動きに、舞台装置、照明、カメラの移動、そして水の輝きが渾然(こんぜん)一体となって絡みあい、実際の舞台を見てもこれほど生々しい物質的感触は得られないだろうと思う。

3Dの効果はそれだけではない。ピナがいないため、各々の役者が彼女の思い出を語るシーンが重要な役割を占めているが、その役者の顔と表情が3Dで恐ろしいほどリアルに迫ってくる。こうした静的な画面で3Dが大きな効果を発揮することを示しただけでも、本作の存在価値は高い。

ただ、作品の焦点が、ピナの舞台の再現、ピナの人間性の回想、ヴッパタールの活動の紹介、ダンサーの個人芸の提示に分裂して、映画としての統一像を結ぶに至っていないのも事実で、その点、ピナという中心の不在が響いている。

また、戸外の風景を3Dで撮るとすべてお伽話(とぎばなし)のような非現実感が出てしまうところも気になった。ともあれ、映画の未来を考えるファンには必見の一作だ。1時間44分。

★★★★

(映画評論家 中条 省平)

[日本経済新聞夕刊2012年2月24日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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