今年もスギ花粉症の季節が近づいてきた。花粉量は平年並みかやや少なめと予想されているが、東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で、放射性物質を含む花粉を吸い込み被曝(ひばく)することに不安の声もある。国は「線量は低く被曝の心配ない」と発表、専門家もマスク着用など例年通りの花粉症対策を取るよう呼びかけている。
東京都内に住む会社員のN美さん(45)は昨年初めて花粉症にかかった。市販の花粉症治療薬を飲んで何とかやり過ごしたが「今年は原発事故の影響も心配なので、徹底した予防対策を取るつもり」。花粉が鼻から入るのを防ぐマスク、目を守るゴーグルをそろえ、耳鼻咽喉科も予約した。
花粉症は細菌などから身を守る免疫システムが過剰に働いて起こるアレルギー症状。スギ花粉がアレルギーの原因物質となり、体内でヒスタミンなどの物質が放出されて粘膜などを刺激し、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどをつらい症状を招く。
国民の約4人に1人が花粉症に悩まされている。「30~40歳代の発症が多いが、近年は小学生も増えている」(東京医科大学耳鼻咽喉科の北村剛一講師)。有病率はこの10年で約10ポイント増えた。
今年の花粉量は平年並みかやや少なくなると環境省は予測している。非常に多かった昨年より全国的に少ない見込みだ。気になる放射性物質の量については、林野庁が福島県内87カ所のスギ花粉を調べ、昨年12月に中間報告を公表した。
雄花の中の花粉に含まれる放射性セシウム濃度が最も高かったのは浪江町内のスギで1キログラム当たり25万3000ベクレルだった。これを基準に試算すると、花粉を吸い込んだ際に受ける放射線量は、大人で毎時0.000192マイクロ(マイクロは100万分の1)シーベルトだった。同庁は東京・新宿で観測される放射線量(毎時約0.053マイクロシーベルト)を示しながら「人体への影響はないレベルだ」とした。
独自の研究報告もある。首都大学東京の福士政広教授は12月23日に、東京・奥多摩地区の杉林5カ所で調査。放射性セシウム濃度は花粉1キログラム当たり50~200ベクレルと福島県内の花粉よりもさらに低く、「影響があるとは考えにくい」(福士教授)と指摘する。