J・エドガー
はなやかな米国の影の部分
クリント・イーストウッド監督の最新作は、FBIをつくりあげ、半世紀近くその長官の座にあった、ジョン・エドガー・フーヴァーの人生をえがく。
「アビエイター」(2004年)でハワード・ヒューズを演じたレオナルド・ディカプリオが、20世紀アメリカの巨人像にまた挑む。
1960年代前半、公民権運動の先頭に立つキング牧師を、目の敵にし、ノーベル平和賞受賞を妨害しようと手をまわす、60代後半のフーヴァーから幕をあける。公式の回想録をのこすため、広報担当官に過去の業績をかたるという形式で1919年、24歳のころにさかのぼる。まだFBIが創設される以前の司法省につとめはじめた彼は、爆弾テロをうけた司法長官邸の現場にかけつけ、共産主義者の脅威を確信。長官の信任もえて、アカ狩りに邁進する。
やがて、わかくしてFBI長官となったフーヴァーは、32年のリンドバーグの愛児誘拐殺害事件の犯人逮捕や、マシンガン・ケリー、ジョン・ディリンジャー等のギャングの逮捕・射殺で名を上げる。
かたられる過去の時間がすすむ一方、かたっているフーヴァーの時間もすすみニクソン大統領の70年代にいたる。
フーヴァーが活躍した半世紀は、アメリカの最もはなやかだった時代である。その影の部分が、この人物を通して見えてくる。
母親(ジュディ・デンチ)への固着、腹心の部下とした男(アーミー・ハマー)との生涯にわたる同性愛関係も重要な要素としてえがかれ、複雑な性格への興味をかきたてる。
しかし、あまりに多くの要素をつめこみすぎて、イーストウッド監督のかたりくちに、いつものような流麗さと情感が、やや欠けている感がある。2時間17分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2012年1月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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