鼻ではなく口で呼吸している人は意外に多い。口呼吸だと、細菌やウイルスへの抵抗力が弱まり、アトピー性皮膚炎やぜんそく、花粉症などのアレルギー疾患を悪化させると専門家は警告する。
「花粉症シーズンは、マスク、ゴーグルを着用して出勤する毎日だった」。東京・杉並在住の会社員、佐藤栄介さん(41、仮名)は、子供の頃から重度の花粉アレルギーだった。毎年春先になると、鼻水や目のかゆみに苦しんできたが、1年ほど前から急に症状が出なくなったという。その理由として考えられるのが医師に勧められて始めた鼻呼吸によるアレルギー体質の改善だ。今年ももうすぐ花粉症の季節がやってくるが、「もう薬も必要ないし、花粉も怖くない」と笑顔で話す。
佐藤さんのように、子供の頃からアレルギー疾患を患う人は多い。文部科学省の調査(2011年度)によると、全国の小学生のうち、アレルギー性鼻炎など鼻の病気を持つ者の割合は12.5%。ぜんそくだと4.34%と過去最多だった。どうして増加傾向が続くのだろうか。
「日本でアレルギー患者が急増する最大の原因は、口で呼吸する人が増えているから」。こう話すのは西原研究所(東京・港)の西原克成所長。幼児期に鼻呼吸の訓練にもなるおしゃぶりを早い時期にやめてしまうため、口で呼吸する癖が付く人が増えていると指摘する。
西原所長のもとにはぜんそくや花粉症などに悩んで来院する人が後を絶たない。大半は佐藤さんのように口で呼吸する人だ。鼻呼吸を習慣付けるだけでアレルギー体質が改善するケースも少なくない。
東邦大学医療センター大橋病院の大木幹文准教授は「鼻孔(びこう)にある粘膜や繊毛が、アレルギーを引き起こす空気中の細菌やウイルスをきれいに除去してくれる」と説明する。さらに、唾液や喉の奥の扁桃(へんとう)でつくられる白血球の働きで、体内に細菌やウイルスが入るのを防いでくれるという。
口には異物を取り除く粘膜も繊毛もない。空気中の細菌やウイルスは除去されないまま扁桃を直撃、免疫力の低下を招く。取り込まれた異物は体内を巡り、細胞に炎症を引き起こす。「炎症が気管に現れたのがぜんそくで、皮膚に出たのがアトピー性皮膚炎、目や鼻に出るのが花粉症」(西原所長)というわけだ。