世界遺産、いいことずくめ? 活性化に期待、生活に制約もエコノ探偵団

「お正月に帰省したら、近所の遺跡を世界遺産にしようという活動が盛り上がっていたわ」。友人の話に探偵、深津明日香が興味を示した。「立候補する地域はたくさんあると聞いたけれど、世界遺産になると、いいことばかりなのかしら」

明日香は早速、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が昨年6月に世界遺産登録した平泉(岩手県平泉町)へ向かった。出迎えてくれた平泉町教育委員会の千葉信胤さん(49)は「例年の2倍の観光客が詰めかけるようになりました」と喜ぶ。東日本大震災の影響による観光客の落ち込みは短期間で終わり、2011年度は前年度実績(約200万人)を上回る見通しだ。

災害時に有利

昨年6月に世界遺産登録された平泉の中尊寺金色堂(岩手県平泉町)

東京にとんぼ返りした明日香はその足でJTBに。「知名度が一段と上がったことが理由ですか」。応対してくれた佐々木秀明さん(35)に尋ねると「自治体や企業などが観光しやすい環境を整えていることもあります」と教えてくれた。平泉では、一ノ関駅から中尊寺などの名所に立ち寄って周辺の温泉地まで運ぶバス路線が開設されていた。

人が集まれば地元はにぎわい、宿泊や土産物販売の増加といった経済効果が生まれる。富岡製糸場(群馬県富岡市)の場合、登録されると、その額は年間84億円との試算がある。世界遺産総合研究所(広島市)所長の古田陽久さん(60)は「この魅力にひかれて、全国で約70カ所が登録を目指して活動中です」という。

調べてみると、足尾銅山(栃木県日光市)や三徳山(鳥取県三朝町)など様々な名所旧跡が立候補していた。「街おこしにつながるわけね。でもそれだけ?」

聞き込みを続けると「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部がある和歌山県の担当者から有力な情報が寄せられた。「災害からの復旧に国の援助が受けられます」。昨夏の台風12号で大きな被害を受けた熊野那智大社は、復旧費の70%を国に出してもらえると話す。

かさむ準備費

世界遺産は各国が推薦した候補地をユネスコが審査する。日本は推薦前に「文化財保護法」や「自然公園法」などで保護することになっており、維持費などの地元負担分は少ない。新規事業でも優先的に予算配分されることが多く、奈良市の平城宮跡は国が建物の復元などをすべて賄う。

「悪いことはなさそうだけど……」。ふに落ちない明日香は栃木県日光市を訪ねた。教育委員会の鈴木泰浩さん(51)から出てきたのは「思ったほど経済効果はありませんでした」との言葉。日光地区のここ数年の観光客数は年間630万人前後で、800万人に達した登録前の1989年に及ばない。

石見銀山がある島根県大田市にも聞いた。「2007年の登録直後は観光客数が2倍になりましたが、その後は減っています」。08年の81万人がピークで、10年は50万人に落ち込んだ。

そもそも、世界遺産になっても老舗観光地の人出はほとんど変わらない。一方、知名度が一気に高まった地域では、人気を維持するのが大変だ。