スイーツ男子、なぜ増えた? コンビニ、隠れ甘党を発掘エコノ探偵団

モテる武器に

早大野球部の甘い物好きがクリスマスケーキ作りに挑戦(東京都中央区の東京ガスのキッチンスタジオ)

食品の栄養化学が専門の京都大学大学院教授、伏木亨さん(58)も節制の反動を指摘する。「甘い物を食べたいという本能が刺激されているのではないでしょうか」。いつまでもスリムでいたいと考え、甘い物を控える男性もいる。だが、糖分は大切なエネルギー源。遠ざけたために、逆に食べたいという欲求が膨らんでいるとの見立てだ。

「野球部もそうだったけど、20代もよく食べるぞ」章司はもう一度、男子スイーツ部の会員と連絡をとった。菓子メーカーで働く佐藤辰則さん(29)は「女性でスイーツ嫌いはまず、いません。話のきっかけにもなるし、友人の輪が広がります」と答えてくれた。

使う素材や作り手のパティシエの経歴まで把握する男性の仲間も多いという。「モテるための武器か。一昔前は自動車だったけど、今はスイーツなんだ」

そうならざるを得ない背景もある。国税庁の民間給与実態統計調査をみると、25~29歳男性の平均給与は10年が366万円。ピークだった1997年に比べ11%も減った。自動車は無理でも、1個数百円のケーキやプリンなら、いくつでも買うことができる。

これまでの結果を報告すると、所長はふに落ちない様子。「本当にそれだけなのかな。味覚も変わってきた気がするぞ」

章司は再び電通総研に足を運んだ。若者の行動を研究する田中理絵さん(34)は「個食化の影響は見逃せません」と説明し始めた。核家族化や共働き世帯が広がるとともに、子どもの頃から自分の好きな物だけを買って食べる若者が増えてきた。「そうなると、甘い物に偏ってしまいます」

すぐ脳に快感

味覚に詳しい畿央大学大学院教授の山本隆さん(67)にも聞いた。「甘味には特別な性質があるのです」。人がおいしいと感じるのは、味を感知して脳内に快感物質が増えるためだ。この物質は苦味や辛味、酸味だと、繰り返し食べて慣れないと増えてくれない。「ところが、甘味だと慣れなくてもすぐ出てきます」

激辛ブームとここが根本的に違う。先行き不安な時代にはハッキリした味が求められるといわれるが、激辛好きは、辛い食べ物にある程度慣れた人々。甘い食べ物は訓練が必要ないから誰もが飛びつきやすい。

影響はスイーツ男子にとどまらなかった。「若い世代には、酢の使い方を知らない人がかなりいます」とミツカングループ本社。そこで、果汁や甘味料などで味付けした調理酢を中心に商品開発しているそうだ。回転ずしチェーン、くらコーポレーションはパフェなどデザートの品ぞろえをこの5年で2倍に増やした。

JTB西日本は「スイーツを試食しつつ、各地の大規模な公園を走るマラソン大会の参加者が急増しています」という。今年12月の大阪の大会は昨年の1.8倍の3200人が走った。

ただ、このままだと苦味や辛味をトレーニングしないまま大人になってしまいかねない。「少し心配だな」。章司はつぶやいた。

「酸いも甘いも知らないとな」。今度は所長もうなずいた。「部下の評価は辛くするかな」