「本屋」は死なない 石橋毅史著書店員を訪ね歩いた熱いルポ

2011/12/19

これは、本と読者を繋(つな)げるキーマン、書店員を訪ね歩いた熱いルポである。著者は、永年、業界紙の記者だった。書名の「本屋」は「本を売る店」ではなく、「『本』を手渡すことに躍起になってしまう人、まるでそれをするために生まれてきたかのような人」という意味で使っている。

(新潮社・1700円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 大手チェーン店を辞めて5坪の本屋を始めた女性、多くのベストセラーを生み出した盛岡の元店長と弟子たち、和歌山の過疎村で小さな本屋を続ける女性、鳥取の個性的な本屋店主、誰もまねることのできない見事な棚を作る名古屋の男性。日本の各地で、それぞれの流儀で、読者に本を届け続ける「本屋」たち。その仕事ぶりがていねいにレポートされる。

 例えば、著者は彼らが作る棚に注目する。「情熱ある本屋の棚は、日々流れている。いま僕が見ているこの棚も、明日には姿を変える」というのだ。ところが、最近はそういうきめ細かい棚の演出があまり見られなくなり、そのかわりに手書きPOPが増えたという。

 さらに、経験に裏打ちされた彼らの言葉には深い含蓄がある。ここでは、「読者」を語った印象的な言葉を2つ紹介しよう。

「読者とは本のパトロンである」(大型店勤務の論客・福嶋聡)

「本が好きで、だから本屋になったんですけど。本が好きだという生き方は、自分が主人公。本を売る生き方は、お客さんが主人公。」(鳥取の書店主・奈良敏行)

 しかし、そういう「本屋」に、いま出版不況という容赦ない風が吹きつけている。出版界の売り上げは年々右肩下がりで、一昨年、ついに2兆円を切ってしまった。書店の閉店も止まらず、この10年間で約6000店減少していった。

 こうした状況を背景にして、書店経営者は人件費削減のために社員の若返り、契約社員・アルバイト中心の現場構成をとるようになった。その結果、本のことを熟知し、こよなく愛する人たち、「本屋」が現場を去るケースも増えている。こういう傾向に著者は危機感を感じている。

 たしかに現実は厳しい。でも、「本」がある限り、彼ら「本屋」がいる限り、心を込めて本を届ける営為は続いていくと信じたい。

(書評家 松田哲夫)

[日本経済新聞朝刊2011年12月18日付]

「本屋」は死なない

著者:石橋 毅史.
出版:新潮社
価格:1,785円(税込み)


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