とっぴんしゃん(上・下) 山本一力著手抜きなし、子供向け時代小説

2011/12/15

直木賞受賞作『あかね空』以来、〈家族力〉を作品のテーマとしてきた山本一力が、子供から大人まで楽しめる傑作を刊行した。本書は、小学生向けの新聞に連載されたものだが、作者は一切手抜きなし。読者と真っ向勝負をしている。私は本書を読んで、子供たちへいい時代小説への入り口を作ってくれたな、と思うと同時に、2つのことを思い浮かべた。

 一つには、往時は、『鞍馬天狗・角兵衛獅子』(大佛次郎)や『神州天馬侠』(吉川英治)等、巨匠たちが心をこめて子供向けの作品を書き、読者はそこから、生きるための勇気や、利害を超えた信念の美しさを読みとったことである。もう一つは、作者の姿勢は、たとえ子供が相手であっても、真剣に芸術について話しかけていた岡本太郎のそれではないか、ということである。

 門前仲町と冬木町の子供たちによる「技比べ」=運動会を通して作中の子供たちが、人としての弁(わきま)えを学び取って成長していくさまや、大人たるもののつとめが正味で描かれ、後半は、人さらいをめぐるサスペンスも。子供に媚(こ)びた昨今の教科書より、本書を正月、家族で読む方がどれほど良いかと思う。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2011年12月14日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

とっぴんしゃん 上

著者:山本 一力.
出版:講談社
価格:1,470円(税込み)


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