真田三代(上・下) 火坂雅志著乱世を生き抜いた一族を活写

2011/12/12
(NHK出版・各2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

戦国小説を得意とする火坂雅志が、新たな題材に挑んだ。本書は、幸隆・昌幸・幸村(信繁)の真田三代を主人公にして、戦国乱世を生き抜いた一族を活写した大作である。

 物語は、武田晴信(信玄)が欲した砥石城を、真田幸隆が攻略する場面から始まる。うち続く乱世の混乱で、ついには武田に属するようになった真田一族だが、これにより頭角を現す。しかし、信州から上州にまたがる山間部の小勢力に過ぎない彼らは、大国の思惑に翻弄される。父親の跡を継いだ昌幸は、生き残りを賭けて各勢力を渡り歩いたために、表裏比興の者と呼ばれたほどだ。一方、昌幸の息子の幸村は、人質として送られた上杉に脈打つ“義”の精神に魅了され、徳川家を敵にまわした戦いに身を投じる。どこか対照的な父と子。だが、その心の底には幸隆から伝わる“小さき者の誇り”が息づいているのだった。

 砥石城攻略から大坂の陣まで、本書にはたくさんの合戦が登場する。それを、有能でありながら地政学上の理由で時代の主流となり得なかった、真田三代の視点で見据えたところに、本書の読みどころがある。また、禰津(ねつ)のノノウと呼ばれる女間諜(かんちょう)集団などを使い、歴史の事実にフィクションの潤いを与えているのも、実にこの作者らしい。

 さらに「あとがき」で作者が“この小説は、地方の誇りを描いた物語である”と宣言していることに注目したい。NHK大河ドラマの原作になった『天地人』以降、作者の興味は地方の武将に向けられている。それは日本が、地方の時代になりつつあるからだ。

 周知のように現在の日本では、地方分権の流れが進んでいる。今後、地方の独立性は、ますます高まっていくはずだ。だがそれだけに、行政等の舵(かじ)取りが、より重要になっていく。このような時代に、地方のリーダーに求められるのは、明確なビジョンを実行する強い意志、そしてなによりも巨大な権力に屈することなき“小さき者の誇り”であろう。作者の描き切った真田三代の生き方は、地方の時代を照らす、一筋の光になっているのである。

(文芸評論家 細谷正充)

[日本経済新聞朝刊2011年12月11日付]

真田三代 上

著者:火坂 雅志.
出版:NHK出版
価格:2,100円(税込み)


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