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500円玉だけなぜ流通増える? 電子マネーと「使い分け」 エコノ探偵団

2011/10/31 日本経済新聞 プラスワン

■「貯金」も一因

「五百円玉は貯金用にもピカイチです」。ニッセイ基礎研究所の主任研究員、矢嶋康次さん(43)が章司を呼び止めた。五百円玉には(1)家族のだれもが手にする機会がある(2)適度に重く貯金の実感を得られる(3)小ぶりの貯金箱でも家族旅行やテレビの買い替えができる額をためられる――などの利点があるという。

五百円玉用の貯金箱ではタカラトミーが06年末に売り出した「人生銀行」が4年間で50万個を出荷する大ヒットを記録した。もっとシンプルな貯金箱は雑貨店などで定番商品になった。貯金箱には2日に1枚を入れても、10万円に達するまでに1年以上かかる。この間に五百円玉は「たんす預金」の一部になる。

アイシェア(東京都渋谷区)が08年8月、ネットを通じ全国の20~40歳代を中心に聞いたところ、貯金箱を持っている人の4割が五百円玉で貯金していた。

事務所で章司の報告を受けたご隠居は満足して帰った。所長が章司をねぎらった。「よくやった。次の給料袋は重くなるぞ」。章司の目が輝いた。「昇給ですね」。所長が首を横に振った。「いや給料をすべて五百円玉で渡す。一部を事務所の貯金箱に入れるんだ」

<経済停滞でも紙幣増加>たんす預金、旧札まだ10兆円

岩手県陸前高田市で4月、がれきの中から回収された金庫

五百円玉を除く硬貨の流通残高が減る一方、紙幣は増え続けている。日銀資料をみると、11年度上半期の平均残高は80兆円弱で、00年度を40%上回った。紙幣の流通残高は通常、国の経済規模に応じて増減する。だが、1990年代前半のバブル経済崩壊後、名目国内総生産(GDP)が年500兆円前後で伸び悩んでも、紙幣が減る気配はない。

名目GDPに対する紙幣の流通残高の割合は10年度が16.3%。91年度の6.8%の2.4倍に拡大した。04年度にデザインを変更する前の「旧札」の回収は遅れている。最高額面の一万円札については9月末現在、総残高の14%にあたる10兆円分(10億枚)がなお旧札のままだ。みずほ総合研究所のシニアエコノミスト、野口雄裕さん(41)は「未回収の旧札の大半は個人が退蔵する『たんす預金』でしょう」と推定する。

日銀によると、3月の東日本大震災に伴う津波などで傷み、交換された紙幣や硬貨は10月21日までに東北6県で計35億円。95年の阪神大震災後の半年間で交換された8億円の4倍を超える。その一部は個人が持ち込んだ「旧札」だった。銀行を不安視する個人が預金を避け手元に現金を積み上げている。

(編集委員 加賀谷和樹)

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