2011/10/24

気持ち新鮮に

「海外旅行より散歩というのも値ごろ感からみれば当然です」。旅費は安くなったが、事前準備など時間はコストと見なされ、費用は小さくない。名所巡りならインターネットなどで疑似体験が可能で、価値は大きく落ちた。徳田さんが授業で約150人にアンケートしたところ、約6割が「散歩している」と答えた。

「今の若者の行動範囲は狭いって聞くけれど、散歩の人気はどう捉えればいいのかしら」。そこで若者とコミュニティーについて調べている慶応大SFC研究所研究員の古市憲寿さん(26)に疑問をぶつけた。

「身近な関係や幸せを大切にする『コンサマトリー』とよぶ価値観が若者の間で確かに広がっています」。古市さんは切り出した。身近に幸せを感じるから、遠くに行く必要はない。「ただ、いつも親しい仲間と一緒だったり、行き慣れた場所しか出かけなかったりすると、次第に閉塞感が出てきます」

これを打ち破るため、無理せずに新しい体験をしてみようという気持ちが湧いてくると古市さんはみる。ちょっとした発見を仲間とできる散歩はピッタリなわけだ。さらに、自分の考えや趣味に合うグループでの旅なら思い切った出費もいとわない。ボランティアツアーや、好きな映画のロケ地などを巡る旅などがその典型。「若者の生活圏が広がるかもしれませんね」。明日香は報告をまとめた。

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「私も下町を散歩してきます」。張り切る明日香を所長がからかった。「おしゃれな店で衝動買いばかりしていると、値ごろ感が下がってしまうよ」

<これも調べました>レジャーはどう変遷?

若者のレジャーへの消費は時代を映す鏡でもある。日本では1930年代、健康意識の高まりに加え、鉄道各社の後押しもありハイキングがブームに。若者人口が増え始めた50~70年代は、出会いの場として「合ハイ(合同ハイキング)」が盛んになった。

就職や進学で都心に人が押し寄せた高度成長期の60~70年代は、都市部で楽しめるボウリングが大ヒットした。お金がかかったスキーが絶頂期を迎えたのはバブル経済の余韻が残る90年代前半。バブル後は費用もかからず、長く楽しめるカラオケに皆が足を向けた。

人口が増え、人々が豊かになった江戸時代もレジャーは盛んだった。日本生産性本部余暇創研の柳田尚也主任研究員は「特定の干支(えと)の日にお堂に集まり、夜通しおしゃべりや食事を楽しむ行事などがあちこちであった」と話す。

最近の注目は、ある場所にとじ込められたとの想定で、参加者が協力して謎を解き、脱出する「リアル脱出ゲーム」だ。近場でちょっとした非日常を味わえる点は散歩と共通する。デフレが続き、閉塞感が漂う社会から抜け出したいとの思いが、脱出ゲームには表れているのかもしれない。

(高橋恵里)