サウダーヂ
地方の現実から現代日本に迫る
驚くべき才能が現れた。富田克也監督。39歳。トラック運転手をしながら週末に郷里の甲府で撮り続けたこの自主製作作品が、今年のロカルノ国際映画祭のコンペ部門に選出された。より重要なのは、その作品が紛れもなく現代日本の深層に迫る映画であること、しかも自主製作でしか作り得ない映画であることだ。
不況と産業空洞化でシャッター通りと化した地方都市の中心街。食堂でラーメンをすする土木労働者の会話もさえない。公共事業の抑制で仕事は激減。ベテランの精司(鷹野毅)や若いラッパーの猛(田我流)が働く下請け業者も暇で、親方は廃業を考えている。
街にはブラジル人やタイ人など多くの移民がいる。精司はタイ人ホステスにのめり込み、タイ移住を夢見る。あやしげな水の販売まで始めた妻との生活にはうんざりだ。一方の猛は外国人を敵視し、右傾化する。不況が深刻になり、外国人は次々と解雇されるが、日本人も人ごとではない。
サウダーヂとはポルトガル語で「郷愁」。ブラジル人ヒップホップグループは憂さを晴らすように歌い踊る。かつての恋人が彼らと仲良くするのに猛は激しく嫉妬する……。
在日外国人を描く映画はバブル期の1990年前後から盛んに作られた。その多くは裕福な日本人に対し、貧しくてかわいそうな外国人という定型から逃れていない。ところが日本経済の低迷に伴い、日本人は富を失い、若者は希望をなくした。この映画は地方都市の現実を通して、確実にその変化をとらえている。
こころの荒廃に加え、過激な民族主義が台頭するという物語もあながち空想とは思えない。土木労働者をはじめ現実に甲府近辺で働く人々を配役し、じっくり撮影した。画面は力強く、その存在感に圧倒される。2時間47分。
★★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2011年10月14日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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