秋の味覚が楽しめる季節が近づいてきた。食を堪能する口の中は健康な状態を保てているだろうか。特に歯周病は歯を失う原因の第1位で、日本人の7割が患っているとされる「国民病」だ。最近は動脈硬化や心筋梗塞、糖尿病を悪化させるといった全身への影響も分かってきた。予防策の基本は日々の歯磨きだが、意外に正しくできていない人が多い。
体の血管のどこかにいるに違いない――。「世界中の研究者が探しています」。東京医科歯科大学の和泉雄一教授が言うのは歯周病菌のこと。口の中にいる歯周病菌が体内に侵入し、血管を詰まらせることが分かってきた。問題は生きた菌として悪さをするのか、死骸がゴミとして詰まっているのか。全身への影響解明を目指し、研究が進む。
赤ちゃんからお年寄りまで、日本人の7割が歯周病のなんらかの症状を持つとされる。高校生でも半数が歯茎に腫れがあるという。対策がとれないのは、目立った自覚症状がないため。痛みもなくじわじわとむしばまれていく。
歯に汚れが付くと、そこで歯周病菌などが増える。これがプラークという白い固まりの正体だ。菌はプラークを足がかりに、歯と歯茎の間のすき間の「歯周ポケット」へ入り込む。空気が嫌いな菌には居心地がよい場所だ。
口にいる菌に対抗して体もさまざまな物質を出すが、その中のたんぱく質を分解する化合物などは歯茎も破壊する。するとポケットが広がり、菌も奥に逃げ込む。さらに化合物が出て歯を支える骨まで溶かす。実は歯周病は菌そのものが起こす症状より、体の防御反応で起きたといえる。歯がぐらついて慌てて歯医者に駆け込むころには歯周病はかなり進行。一度失った骨を修復するのは難しい。
ところが、骨が分解され歯が抜け落ちても、菌が口の中にとどまるわけではない。「上下左右28本すべての歯の歯茎がひどく腫れた状態は、口の中に手のひら大の腫れ物があるのと同じ」(和泉教授)。腫れ物の表面の皮膚は薄く、菌にしてみると絶好の侵入口で、体内へ入っていく。通常、菌が侵入しても体の防御反応で無菌化できる。ただ、歯周病は次から次へと絶え間なく侵入してくる。