ハンナ
スパイ活劇におとぎ話の味
雪におおわれたフィンランドの山奥で、少女が弓で大鹿を狩るアクション・シーンからはじまる。
矢が急所をそれたため、逃げる鹿を追い、とどめをさして、臓物をさばく。
背後から近寄る男に気づき、格闘となる。少女は相当な技のつかい手だ。
男は、少女ハンナの父エリックだ。彼は、ハンナが赤ん坊のころから、2人きりで山奥にこもり、サバイバル術をはじめ、格闘技、射撃、英語のほかに数カ国語、その他さまざまな知識を、ハンナが16歳になる現在まで、教えこんできた。現代版「あずみ」を思わせる戦闘能力をもつ少女に成長したハンナ。
ハンナには「つぐない」(2007年)のシアーシャ・ローナン、エリックに「ミュンヘン」(05年)のエリック・バナ。そして、16年まえにハンナの母を殺し、いま2人を追うCIA局員マリッサ・ヴィーグラーに、演技派の名女優ケイト・ブランシェット。
ベルリンの「グリムの家」で会おうと約し、エリックは山を下りる。直後、CIAの部隊が駆けつける。ハンナはわざと捕らえられ、マリッサをたおそうとするがはたせず、CIAの地下基地から脱出。
なんと、そこは、雪山から一転して、モロッコの沙(さ)漠(ばく)! はじめて世界へとび出したハンナは、そこからベルリンへとサバイバル旅行。何もかもが初体験だ。
やがてハンナの出生の秘密があきらかにされていくように、これはSF的スパイ・アクションでもあるのだが、そこに、少女が主人公のおとぎばなしの風味が濃厚にただよい、おもしろい味になっている。ケミカル・ブラザーズのテクノ音楽が、この味をつよめ、ケイト・ブランシェットの「悪い魔女」ぶりも秀逸だ。
監督は、「つぐない」のジョー・ライト。1時間51分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2011年8月19日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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