ツリー・オブ・ライフ
人間と宇宙の根源に迫る
今年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を獲得した作品。人間と宇宙の根源に迫る志の高さ、尖鋭(せんえい)的なイメージの美しさ、難解を恐れぬ詩的構成。本年度屈指の問題作だ。
映画には二重の時間が流れている。1つは、1950年代テキサスの田舎町。父親(ブラッド・ピット)を中心に築かれた家族の情景だ。父親は人生において勝利者となることを目標とするが、実際には成功していない。そのギャップを妻と2人の息子を専制的に支配することで埋めようとする。11歳の長男ジャックはそんな父親に反発し、様々な悪徳の誘惑に手を伸ばすようになる。そうした普遍的な題材が、極端に断片化されて描かれる。
もう1つの時間は現代で、中年を迎えたジャック(ショーン・ペン)が、かつての父との関係、やさしくも毅然としていた母の姿、弟の突然の死が残した余韻を回想している。
2つの時間のあいだには大きな空白があり、それをつなぐ因果関係は語られない。出来事は鮮明に描かれるが、すべてが未決定のまま宙吊りにされるような不安のなかに置かれている。あたかも人間にすべては知りえないとでもいうように。この映画の背後に厳然と控えているのは、つねに人間を超えた何かが存在し、人間はその何かに問いつづけることしかできないという哲学だ。
この哲学に呼応するように、長い時間をかけて、宇宙の果て、自然の営み、人体の内部など、マクロとミクロの映像が並置(へいち)して提示され、そうした多彩な現象の彼方(かなた)に、一個の〈創造的意志〉があることを示唆する。宇宙と人間のなりたちに関する根源的な問いかけだが、この西欧的一神教の風土に共感できるかどうかで評価は分かれるだろう。テレンス・マリック監督。2時間18分。
★★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2011年8月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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