宮崎・美々津 「私も住みたい」白壁の町

瓦ぶき、白壁の家並みが洋々とした日向灘を望み立ち並ぶ。宮崎県日向市の美々津町は、江戸から大正期までの商家が残る港町だ。町並み保存地区に指定された今も一軒一軒の家では暮らしが営まれ、ここに移り住む人もいる。

◇            ◇

平入、妻入の商家が並ぶ町並み。今も昔も地元の子どもの遊び場

宮崎から各駅停車で1時間のJR美々津駅と国道10号線。そのいずれからも外れる海辺の町が、美々津の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)だ。国が1986年に指定した縦横それぞれ300メートル強の保存地区は、堂々とした造りの廻船(かいせん)問屋、商家や町家造りの落ちついた家並みが、南北に3本並行する通り沿いに連なる。

「この町を知らない人は県民でも多いですよ」。築120年の古民家で自然素材の品々をそろえた「雑貨&カフェ 民」を営む植田直美さん(38)は言う。植田さん自身、8年前に親しみやすさと落ち着いた町の雰囲気にほれ込み、移り住んだ。だが、「町並み見て何が楽しっちゃろうか?」と、近所に住む60代の女性に真顔で言われ、絶句したこともある。

地元の人々が町並みの価値に一見無頓着なのは、そこが自分たちの日常生活の場だからだろう。美々津では通りと交わる路地にある家の玄関先に運動靴が干されていたり、開け放した室内から遊ぶ子供の声が聞こえたりする。折り畳める縁台「ばんこ」でおしゃべりに興じるお年寄りの姿もみられる。

どっしりとした商家の建物を活用したまちづくり拠点「美々津軒」。この家で生まれ育ち、今は館長を務める佐藤久恵さん(69)は、市役所の熱心な働きかけもあり、町並みの保全に動いた住民の一人だ。「古くからの町並みがそのまま残り、そこに今の生活がきちんとあるのがこの町の良さ」

江戸から大正にかけ、美々津は大阪と結ぶ海運業で栄えた。山から下ろした木材や炭を積み出し、上方の文物が届く港町のにぎわいを称して「美々津千軒」。真ん中の通りに面した間口5間、奥行き23間、京格子に虫籠(むしこ)窓の建物は廻船問屋の河内屋跡。現在は歴史民俗資料館になっている。隠し階段を上った2階から、瓦屋根の連なりの向こうに海が見えた。往時は港を出入りする千石船の姿が目にできただろう。

港町の役割は物流が鉄道や道路に移るとともに薄れたが、高度成長期まで地域随一の繁華街としてにぎわいを保っていた。呉服、薬、げた、文具、豆腐、キャンディー。佐藤さんにとって、幼かった当時は町の隅々までが遊び場だった。活気ある商店が並ぶ通りの真ん中で、缶蹴りをして一日中遊んだものだ。