サンザシの樹の下で
静かで美しい恋物語
中国映画界のトップ・ランナーとして走りつづけるチャン・イーモウ(張藝謀)監督による、文化大革命の時代を背景にしたラヴ・ストーリー。
1970年代はじめ。都会の高校生たちが農家に住みこんで、労働を学ぶ農村学習。その村で、最終学年の女生徒ジンチュウ(静秋)は、地質探査隊の青年スン(孫建新)と出会う。
恋など意識しないまま、親しくなり、ジンチュウが都会にもどってからも、スンはたずねてきた。おくてのジンチュウも、スンを恋しく思うようになる。
男女の自由な交際がみとめられる時代でなく、ジンチュウの母の反対もあり、二人はしばらく会わないことにするが、やがてスンが不治の病にかかっていることがわかる……。
ジンチュウの父が右派として労働改造所に送られ、母も職場でにらまれているなど、当時の事情が、二人の恋を左右する要素としてストーリーにからんでくるが、それはあくまで背景であって、主眼は、青年と純真な少女の悲恋ものがたりである。
ベストセラー小説が原作という、このストーリーは、時代背景をのぞけば、ありふれたものだが、チャン・イーモウが、メロドラマ的な演出をさけ、彼の作品系列でいえば「秋菊の物語」(92年)や「あの子を探して」(99年)のほうにちかいリアリズム的な手法をとっているところに新鮮味がある。彩度はおさえめで、音楽も本当にひかえめだ。
二人のからみの、ほとんどサイレント映画のような静かなシーンが、美しい。
ジンチュウ役の新人チョウ・ドンユィ(周冬雨)は、「初恋のきた道」(99年)のチャン・ツーイー(章子怡)が美少女の一典型を強力に打ち出したのとは対照的に非典型的な、微妙な魅力の少女。1時間54分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2011年7月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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