あぜ道のダンディ
50歳男に優しい視線
昨年「川の底からこんにちは」で注目され、ブルーリボン賞監督賞を最年少の27歳で受賞した新鋭、石井裕也監督の新作。
50歳になった男の、平凡な日常のなかでの哀歓と、本人がそうあろうとしているダンディズムの心意気をえがく。
名バイプレイヤー、光石研が、デビュー作「博多っ子純情」(1978年)以来33年ぶりに、主演。
宮田淳一(光石)は、生まれ育ったいなか町で、運送会社につとめている。妻(西田尚美)とは死別。浪人の息子(森岡龍)と高3の娘(吉永淳)は、このごろ、ろくに口もきいてくれない。はなし相手は、幼なじみの真田(田口トモロヲ)だけだ。
真田は、7年間、父を介護するあいだに妻に逃げられ、その父も最近他界し、ひとりぼっち。この7年間の「自分へのごほうび」とソフト帽を買った。ダンディーなつもりだが、宮田から、いつもけなされる。
これまでの作品では、露悪的で、誇張されたカリカチュア的な人間描写に特長があった石井監督だが、ここでの50男たちにそそぐ視線は、なんともやさしい。
居酒屋でグチをこぼし、あるいは意気をあげて、「男ってものは……」と二言目には言いたがる2人の言い分に、親身に耳を貸す。
息子と娘が、同時に東京の私立大学に合格してしまった宮田は、経済的に窮地だし、肉体的にも胃に痛みをおぼえ、ガンではないかと思いつめる。
たしかに、父として、あるべき男らしさをたもって生きていくのは、大変かもしれないが、それにベッタリと共感するだけでは、映画としておもしろくない。
石井裕也の従来の作品にあった毒気と乱暴なエネルギーは、どこへいってしまったのか。次回作に期待したい。1時間50分。
★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2011年6月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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