軽蔑
アウトローの感情 繊細に
中上健次の最後の長篇小説を、「ヴァイブレータ」(2003年)等の廣木隆一監督が映画化。脚本は「八日目の蝉」の奥寺佐渡子。
新宿・歌舞伎町のポール・ダンサー、真知子(鈴木杏)は、彼女目当てでくる客のチンピラ、カズ(高良健吾)が好きだったが、
夜の高速道路をつっ走る二人。ここで終われば、アウトローどうしの恋の、この上ないハッピー・エンドとなるところだ。
しかし、二人が着いたのは、カズの故郷の海辺の町(ロケ地は、中上健次の故郷の和歌山県新宮市)。カズの実家は古くからの資産家で、父の所有するマンションに二人は住み、叔父の酒屋でカズははたらく。
カズが帰ってきたと知り不良なかまが集まってくるし、むかしの女も彼をほうっておかない。
カズを囲む濃密な人間関係(父や叔父は、この放蕩(ほうとう)息子を否定的な目で見ているが、それもふくめて)の重さに、真知子はたえられなくなっていく。
この、真知子だけが感じる、小さな町の空気の重さ、彼女がねがう男女の「五分と五分」の裸の関係が、なり立たないことのいらだちをえがく中盤は、見ごたえがある。
鈴木杏の裸体もいとわない果敢な感情表現、高良健吾の社会的にダメ男でありながら貴公子然とした美丈夫ぶり。ともにいい。映像も美しく繊細だ。
だが、借金で追いつめられたカズの、原作とはちがう結着(けっちゃく)のつけかたをえがく終盤は、チンピラの純愛を主題とする映画の、きわめてありきたりなやりかたに思え、華麗だが、いまひとつこころにひびかない。2時間15分。
★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2011年6月3日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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