SOMEWHERE
父娘の至福の時、細やかに
繊細でみずみずしく、どこかメランコリックでもある独特のテイストを持つソフィア・コッポラ監督が描く"父と娘"の世界。2010年ベネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞した。
1歳で父親の監督する「ゴッドファーザー」に出演。ハリウッド・セレブの世界を内側から見て育った女性監督が、実在の超有名ホテル、シャトー・マーモントで暮らす人気スター、ジョニー(スティーヴン・ドーフ)の日々を映し出す。
酒と女に溺れても、身体を吹きぬける虚(むな)しさを消すことができずに自分をもてあます男。彼は別れた妻から預かった娘クレオ(エル・ファニング)の少女から娘へと花開こうとしている美しさに息をのんだ。
無心にアイススケートの練習をする姿の清らかな輝き。ジョニーは自分の無為に過ごす日々を省みずにはいられなくなってくる。
そう、11歳になる娘の出現で自分を見つめ直し、変わろうとする父親の物語である。が、そう簡単にフェラーリを駆り、出張ダンサーを部屋で踊らせ、海外の映画祭で大歓迎されるセレブ生活は変えられない。
有名監督の娘として特別な世界で育ったソフィアは、そこで身についたものをたくみに生かした脚本を書いて演出。父と娘が過ごす至福の時をキメ細やかに描写することで、男の心の変化を語っていく。
映像も表現方法もお洒落(しゃれ)だが、お洒落という言葉がときに感じさせる軽薄さはなく、軽やかな真面目さが心にしみてくる。娘を持つ男には成長してほしい、というのは、2児の母になったことを意識しているソフィアの願いであり、いままで少女の気持ちを語り続けた彼女自身の成長でもあるのだろう。見ていて胸が甘酸っぱく疼(うず)いてくる。なんだかほっとさせられる幸せがここにある。1時間38分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2011年4月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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