香川・小豆島 起伏に富む 山・海の美

瀬戸内の穏やかな海に浮かぶ小豆島。暖かな気候はオリーブの実を育むが、海から標高800メートルほどまで立ち上がる山肌の険しさも、またこの島らしさだ。輝く海を遠く近くに眺めながらの島の暮らし。上り下りによってがらりと表情を変える島の景観をたどってみた。

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虫おくりの舞台、中山千枚田。田植え時期は水が張られ新緑を映す

小さな神社の境内にかやぶき屋根の歌舞伎舞台。山間の静かな集落、中山地区はどこか懐かしさを感じるたたずまいだ。急斜面に広がる棚田は「中山千枚田」と呼ばれ、代々守り継ぐ集落の財産。2010年夏の夜、竹製の明かり「火手(ほて)」を手にした人々が、この棚田を縫うように山を下った。過疎化で途絶えていた「虫おくり」だ。

復活のきっかけは4月公開の映画「八日目の蝉(せみ)」のロケだ。「山から下りてくる場面を撮りたい」。制作側のそんな要望に応え、地区136軒の総代、九野賢輔さん(63)らは奔走の末、150人の人手を確保。幻となった農村祭事は、再び幽玄な姿をカメラの前に現した。

いちばん上の水源から眺めると、一枚一枚違う曲線に縁取られた田んぼが段をなして谷まで続く。春を待つこの時期は水もないが、何代にもわたり丹精込めた造形美は圧巻。「ここらの景色はわしらが子どもの頃とほとんど変わっていない」と中野敬隆さん(72)。「最近は耕作放棄地も多い。映画は千枚田の記録になる」。おそらく地区最後となる虫おくりに託した思いを九野さんは明かす。