ゲゲゲの女房
淡々と新鮮な世界作り出す
年末も近いので言ってしまうが、これは今年の日本映画のベスト何本かに、はいるべき作品である。
人気のテレビ・ドラマのあとを追っての映画化ではない(そもそも企画は、こちらが先だった)。それどころか、きわめてオリジナリティーの光にあふれる、新鮮な世界をつくり出している希少な映画だ。
昨年の長篇(ちょうへん)デビュー作「私は猫ストーカー」で注目をあつめた鈴木卓爾監督と名キャメラマン、たむらまさき、そして主要スタッフたちが再び組んで、その独特のスタイルに、みがきをかけた。
はなしは、ごぞんじのように、まんが家、水木しげる夫妻の、結婚をしてからの数年間。原作をつづった妻、布枝(ぬのえ、吹石一恵)の視点が主になっている。
安来節が有名な島根県安来市で生まれ育ち、29歳になった布枝は、鳥取県境港市出身で、東京に出て貸本まんがをかいている武良(むら)茂(宮藤官九郎)と、ほんのかたちばかりの見合いで、結婚を決め、上京。
昭和36年(1961年)。日本の経済は上向いていたが、貸本まんが界は末期の状況。新婚生活は、すなわち貧乏生活となる。
昭和30年代の耐乏生活が甘いノスタルジアを排し、かといって、ささくれたリアリズムでもなく、淡々としたタッチでえがかれる。
人物の感情は、直接に観客にぶつけてくるような演技で表現されるのでなく、あくまでも日常的な挙措の上に、にじみ出てくるものをすくう、小津的ともいえるやりかたなので、淡々としているのだが、深くこころにしみいってくる。
貧乏であるがゆえに社会の周縁に位置する人々。それに親和するかのように、ひそやかに出現する妖怪たち。人と妖怪の境界が、ときに曖昧(あいまい)になってしまう世界が、妙にいごこちがいい。1時間59分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2010年11月19日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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