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終末期の医療 延命・自然…「最期」選べるか

2010/10/7 日本経済新聞 朝刊

高齢化社会が進むにつれて亡くなる人の数が増え、すでに日本では年間110万人を超すまでになった。こうした中、人生の終末期の医療に関心が集まりつつある。延命を重視するのか、自然・平穏であるのに重きを置くのかなどを巡って議論が起きる。突然の病気や事故もあり得ることを考えれば、高齢者だけの問題ではない。私たちは「最期」を選ぶことができるのだろうか。

「主人が! 主人が!」

3年ほど前、医療相談などを営む会社、医療コーディネータージャパン(東京)に30代女性から取り乱した電話がかかってきた。40代の夫が勤務中に脳出血で倒れ病院に運ばれたが、意識もなく危険な状態だという。医師から「このままでは自力呼吸も難しいので、人工呼吸器をつけてはどうか」と相談されたという。

救える技術は進歩

「どうしていいかわからない。主人の親は『呼吸器をつけて』という。私の親は『いたずらに延命するのはどうか』という」。混乱する女性に、看護師でもある社長の堀エリカさんは「自分はどうしたいか、これまでご主人とどんな話をしてきたか、ご主人ならどうしてほしいと言ったか、落ち着いてよく考えてみてください」と語りかけた。

女性は結局、呼吸器をつける決断をした。数週間後に夫は亡くなったが、今もときどき「本当にあれでよかったのか、彼は幸せだったのか」との思いがよぎるという。

医療技術の発達に伴い、“救える命”が増えた。意識もないまま人工呼吸器などによって生きている人もいる。最近では、認知症や老衰が進んで口から食事をとれなくなった高齢者に対して腹部の外から胃に管を通す「胃ろう」という処置で栄養を補給し、延命することの是非が問われている。

こうした終末期は望ましいものなのかどうか。様々な議論や取り組みが始まっている。それらに共通しているのは「本人の意思が重要」との認識だ。厚生労働省がまとめた「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」でも、「患者本人による決定が基本」と示す(表A)。

愛知県大府市にある国立長寿医療研究センター病院。ここでは2007年から患者に対し、終末期(不治の病で回復不能などの状態)にどのような医療をしてほしいか希望調査を実施している(表B)。

調査用紙はA4判の紙1枚。「胃ろうによる栄養補給はしてほしいか」――などを選ぶ。自分で判断ができなくなったときに、主治医が相談すべき相手などの記入欄もある。

過去に病院で亡くなった患者のカルテを調べたところ、「本人の意向がわからず家族も判断できないまま、医師に依存する例が多かった」(三浦久幸・在宅医療推進室長)ため、希望調査を始めることにした。あくまで申し出た人だけが対象。これまでに50~90代の約120人が提出した。

提出者で実際にこの病院で亡くなったのはこれまで3人だけ。この人たちは基本的に延命治療を望まない意向だったので、それに沿う医療方法を選んだという。ただ希望提出者は全体から見ればごく一部。調査手法やその活用法には検討の余地があるようだ。

ここまで調べてくれる医療機関はまだ少数。ならば患者側で事前に決めておく手もある。

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