大奥
男女の逆転、リアルに描く
世の中、男性の数が激減したらどうなるか。男女の社会的地位や役割などはどう変わるのか。男女の役割が逆転した江戸時代の大奥を舞台に描いたよしながふみの人気漫画を映画化した奇想天外な物語だ。
時代は第7代将軍、徳川家継の治世。男性だけが罹(かか)る難病の蔓延(まんえん)で男の数が激減し、すべてが男女逆転。女性は力仕事をやり、男性は子孫を残すのが主な役割になり、吉原の花魁(おいらん)さえ男の仕事になっている。
貧乏な旗本の長男、祐之進(二宮和也)は、婿養子の良縁に目もくれず、剣術に熱中し、武士道を追い求める毛色の変わった若者で、町家の娘、お信(堀北真希)と互いに心を寄せ合っている。そんな祐之進が家の窮乏を救うため決意したのは大奥に上ること。
女人禁制の大奥は、夥(おびただ)しい数の男性が一人の女性将軍に仕えるため、しきたりや序列に喧(かまびす)しい一方、野望や嫉妬(しっと)が渦巻き、上司の寵愛(ちょうあい)を受けるため男色がはびこっている。祐之進は大奥の総取締(そうとりしまり)に気に入られて、将軍の寵愛の対象となる御中臈(おちゅうろう)にまで出世する。
時あたかも家継が逝去、8代将軍として幕政の改革を胸に秘めた吉宗(柴咲コウ)が迎えられる。その吉宗が大奥に初お目見えした時、祐之進にお声がかかるが……。
吉宗という実在の将軍を女性とする逆転の発想は面白い。大奥の有様(ありさま)は重厚かつリアルに描かれて説得力がある。原作が漫画ということから映画全体も軽いノリと思いきや、時代考証に基づいたシリアスな展開になっていて思わず見入ってしまう。
そんな男女あべこべの世界が男性優位の裏返しに終わっているのは残念。もう一歩踏み込んで社会風刺の味付けが欲しかった。監督は「木更津キャッツアイ日本シリーズ」の金子文紀。1時間56分。
★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2010年10月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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