男性の尿失禁 手術ですっきり

男性の深刻な尿失禁を手術によって改善する治療法が効果をあげている。尿道付近の弱った筋肉を補強するために専用器具を埋め込む。大がかりな手術のように感じるが比較的短時間ですみ、手術後の改善効果は高い。尿失禁は命にかかわらないため軽視されがちだが生活の質(QOL)を脅かす。一人で悩まず専門医に相談してみるのがよい。

「トイレをまったく気にしなくてすむようになった。シルバーセンターの草取りの仕事も楽しい。今までの苦しみがうそのようだ」。宮城県に住む稲本哲夫さん(仮名、78)は笑顔で話す。

稲本さんは2005年の暮れに前立腺がんの手術を受けた。前立腺を摘出した後遺症で尿失禁が続き、下着には常に厚めのパッドを装着、1日4~6回程度は交換していた。「どこに行くにも頭から尿パッドのことが離れなかった」という。

何とか不自由な生活を改善したいと考え、主治医に東北大学病院を紹介してもらい、09年秋に人工尿道括約筋を埋め込む手術を受けた。

人工尿道括約筋は米国で開発されたシリコン製の医療器具。尿道を締めたりゆるめたりする「カフ」と呼ぶリングや締め付けを調整する長さ約2センチメートルのポンプ、直径約4センチメートルの「バルーン」(球)などをチューブで結んでいる。器具全体を陰のうと下腹部に埋め込む。チューブなどには水が満たされており、皮膚の上から手でポンプを押して排尿を調節する仕組みだ(図参照)。

東北大学病院で人工尿道括約筋の埋め込み手術を進める荒井陽一教授は「男性で1日に尿パッドを2枚以上使うような重い尿失禁が長く続く場合は、人工尿道括約筋の埋め込み手術が唯一有効だ」と説明する。

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