借りぐらしのアリエッティ
床下の宇宙、説得力ある描写
スタジオジブリの新作アニメーションである。メアリー・ノートンの児童文学を、宮崎駿が1950年代のイギリスから現在の日本に舞台を移して脚本化。古い家の床下に暮らす小人の一家を中心に、その娘と人間の少年との心の交流を温かく描いている。
東京近郊にある大きな古い屋敷。広い庭には草木が茂り、小さな森もある。その家の床下に小人の一家が住んでいる。父親(声は三浦友和)と母親(大竹しのぶ)、そして14歳になる少女アリエッティ(志田未来)の3人家族である。
彼らは妖精でも怪物でもなく、人間を縮小した生きものだ。その暮らしぶりは人間生活のミクロ版で、床を挟んで同じような生活を営んでいる様子が面白い。彼らは必要なものを床上の人間世界から少しずつ借りて暮らしている。
人間が寝静まった夜中、床上の世界に忍び込む父親とアリエッティ。探検旅行のように、大きなネズミやゴキブリから身を守り、ロープや粘着テープを使って登ったり降りたりして台所にたどりつくが、アリエッティの目から見た巨大な台所の光景に彼らの苦難がしのばれる。
そんな彼らは絶滅寸前であり、その存在を人間に気づかれてはならない。ところが、この古い家に静養にきた翔(しょう)少年(神木隆之介)に見つかり、翔とアリエッティの心の交流が始まる。結局、ラストで一家は引っ越していくが、物語がテンポ良く進むだけに、途中で登場する小人の少年が謎のまま残るなど、少し尻切れトンボの印象がある。
米林宏昌監督は、これがデビュー作となるスタジオジブリの若手。床上と床下の相似的な宇宙の対比に、思春期にあるアリエッティの多感なキャラクターを重ねて、奇抜だが説得力ある世界を展開している。1時間34分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2010年7月16日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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