ケンタとジュンとカヨちゃんの国
甘さ感じさせない青春映画
「ゲルマニウムの夜」(2005年)でデビューした大森立嗣(たつし)監督の第2作。熱気がこもった、トゲのある描写の青春のドラマだ。
ケンタ(松田翔太)とジュン(高良健吾)は、同じ児童養護施設にそだち、いまも同じ土木会社で、いっしょに作業している。彼らを監督する立場の先輩(新井浩文)の理不尽ないやがらせに、ついにケンタがキレて、そいつの車をボコボコにし、会社のトラックを資材ごとかっぱらって、逃げる。まえにナンパして、ジュンと寝た女の子、カヨちゃん(安藤サクラ)も、ついてきた。
男2と女1の逃避行。なにやら1960~70年代のアメリカン・ニューシネマを思わせるロードムービーじたてであり、「明日に向って撃て!」(69年)ばりの三角関係の構図だ。
しかし、彼ら3人には、かつての映画にあったようなロマンチシズムも、ヒロイックな気分も、ありはしない。
カヨちゃんは、キャサリン・ロスとは似ても似つかない、愛に飢えて、だれとでも寝てしまうブスな子だし、そんな彼女のカネを盗んで、見知らぬ土地の路上におきざりにするケンタとジュンも、最低な野郎だ。
だが、それでもジュンを追ってくるカヨちゃん。悲哀をこえて、聖性をのぞかせるような、それでもやっぱりブスなような。
彼らは北へ、北へと移動する。ケンタには、網走刑務所にいる兄に会うという目的があったが、面会の結果は、絶望を深めただけ。
国家はつるところへ出ていこうと、とらえられた虫のようにあがくケンタとジュン。
青春映画というには、あまりに甘さがなく、観念的でもある。だが、青春のエネルギーとそのアナーキーさを、これほど挑発的にぶつけてくる映画はめずらしい。2時間11分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2010年6月18日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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